【書籍に学ぶ-001】サイゴンから来た妻と娘

■ 国家、社会、家族――日本人の価値観を揺さぶる一冊

 久しぶりに清々しい本に出合った。それだけではない。自分が心の中に描いてきた、人間の生き方に対する価値観を大きく揺さぶられた思いだ。

舞台は1970年代。サイゴン(現ホーチミン市)が陥落し、ベトナム戦争が終結した日を挟む数年間である。戦場特派員としてベトナムに駐在した著者は、大輪の花のような笑顔に魅せられ、幼い子をもつベトナム人女性と結婚する。終戦を機に日本へ帰国した一家の暮らしを通して、ベトナム社会とベトナム人への深い愛情と洞察が綴られている。軽快なタッチで、読み物としての面白さが際立つ。

本書は、単なる異文化体験記ではない。国家とは何か、社会とは何か、家族とは何か。そして、人はどう生きるのか。多くの日本人が当たり前のように受け入れている価値観を、改めて問い直す機会を与えてくれる。

何よりも感銘を受けたのは、著者の人間と社会を見つめる眼差しである。これほど大きなカルチャーギャップの渦中にいる当事者でありながら、相手を冷静に見つめ、同時に自分自身をも客体視している。異文化を外から観察するのとは訳が違う。著者が本書を書いたのは三十代かと思われるが、その成熟度と洞察力、文章力には感服する。

【サイゴンから来た妻と娘 近藤紘一著 文春文庫495 1980/7/25 第1刷】

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