M4 なぜ組織は人を壊すのか?

 


職場には、ストレスから健康を害する人が一定数いる。最近の調査では、新社会人の約40%が入社3か月以内に心の不調を訴え、就業年齢人口の約15%がうつ病などの精神疾患を抱えているという。本来、組織は人が協力して一人では成し得ないことを実現するための仕組みである。それにもかかわらず、なぜ組織は人を壊してしまうのか。

かつて関係した企業に、目標達成を最優先とする強烈なカリスマ性をもつトップが就いたことがある。常に高い数値目標が課され、未達であれば責任者が衆目の中で厳しく詰められた。会議ではプロセスより結果が重視され、できなかった理由を説明する余地はほとんどなかった。


メンバーは次第に失敗を恐れ、本音を語らなくなり、やがて一人、また一人と職場を離れていった。振り返れば、そこにあったのは強い組織ではなく、人の側面が切り落とされた異様な組織だった。これでは人は壊れる。

組織には本来、二つの側面がある。一つは成果を追求する側面であり、もう一つは人を支える側面である。ドイツの社会学者 F. テンニースによれば、前者がゲゼルシャフト、後者がゲマインシャフトに相当する。企業は本質的に成果を追求するゲゼルシャフトである。しかし、人間が集まる以上、メンバー同士の関係性や充足感といったゲマインシャフトの要素も不可欠だ。

この二つがバランスを取りながら機能しているとき、組織は持続的に成果を上げることができる。しかし現実の職場では、このバランスが崩れることが少なくない。特に目標達成への圧力が強くなると、組織はゲゼルシャフトの側面だけが肥大化し、人を支える機能が後退する。すると、メンバーは「成果を出すための手段」として扱われるようになり、心理的な余裕や安心感が失われていく。

この状態が続けば、組織の内部には歪みが生じる。本音が語られなくなり、挑戦が避けられ、やがて心身の不調を訴える者が現れる。組織が人を壊すのは、このようにバランスが崩れたときである。

この過程は、多くの場合、急激に起きるわけではない。小さな違和感の積み重ねとして静かに進行する。発言は減り、挑戦は避けられ、やがて人は「言われたことだけをこなす存在」へと変わっていく。さらに追い詰められれば、不正にも手を染めかねない危険性をもはらむ。組織は表面上は回っているように見えても、その内側では確実に力を失っている。

したがって、経営リーダーに求められるのは、単に目標達成を促すことではない。成果を追う仕組みと同時に、人を支える仕組みを意図的に設計することである。

例えば、MBO(目標管理制度)は成果を追う仕組みとして有効だが、それだけでは不十分だ。これをCDP(キャリアディベロプメントプラン)と組み合わせ、個々人の成長やキャリアへの視点を組み込むことで、はじめて健全な運用が可能になる。


前者が組織の目標達成を促す仕組みであるのに対し、後者は人の成長を支える仕組みである。この両方が揃ってこそ、組織は持続的に機能する。MBOとCDPをこのような視点で捉えれば、各々の取組み姿勢も変わってくるものと思う。

組織が人を壊すのは、目標を追い過ぎるからではない。人を支える仕組みを持たずに、目標だけを追わせるからである。組織とは、人を使う装置ではない。人が壊れずに力を発揮できることは勿論、仕事の充実感と個々人の成長が促される基盤の上に、はじめて機能する存在なのである。

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