M2 その事業計画に心が躍りますか?



大手企業は毎年9月の後半あたりから次年度の予算と事業計画をつくる時期に入る。予算(受注、売上、利益)の策定は本来、事業計画の一部だが、多くの企業で予算の大元となる業績目標が先に立てられ(与えられ)、その後計画立案となる。この場合、業績目標はマネジメントが、実行プランは実務部門がつくる。

当然ながら、マネジメントがつくる業績目標はストレッチ(背伸び)した数値になりがちだ。実務部門は「こんな高い目標が達成できるのか?!」といぶかるが、1年以上も先に結果がでることに誰も「 No 」とは言えず、目標に見合うプランを「つくり」上げることになる。

この手順の奇妙なところは、マネジメントがつくった目標数値に実務部門が実行プランを出した段階で、(それがどんなに困難なものであっても)目標数値自体も実務部門がつくったものと見なされることだ。

日本の会社員は、できないことを「できない」と言うのが苦手だ。できない理由を客観的に説いて、代替案を出すことにも長けていない。上からの「できないわけはないだろう?」と「できないのはやる気がなからだ!」との根性論に屈する。かくして、達成できそうもない予算と共に、現場は不安と不満を抱えて新年度をスタートすることになる。

来年度のことと言えども、未来を計画することは容易ではない。元来、誰がやっても完璧なプランはあり得ないが、基本が二つある。一つは、計画に際して徹底的に事実(ファクト)を収集して、分析すること。特に顧客や競合情報などは、公開情報に加え独自の一次情報を入手することが必須だ。ファクトにもとづかない事業計画は、仲間内の飲み屋でのトークと大差ない。

もう一つは、計画立案作業のプロセスの中で、プランに対する本気度を固めることだ。収集されるファクトをもとに現状分析を繰り返し、方針と施策を何度も熟考する中で、どこまでが達成可能か(=目標の妥当性)と、達成には何が必須要件か(=成功の鍵)が見えてくる。「これならできる。やってみたい!」と思えるまで、考えを練り上げることだ。この思考プロセスが、プランそのもの以上に大事だ。

事業計画は、立てた時点では机上での仮説だ。「事業活動とは、その仮説を関係者全員で検証するプロセス」とも言える。1年の間には事業環境も変わり得る。当初の思い通りには進まないこともあるだろう。計画は「一度立てたらオシマイ」ではなく、適宜見直すことが肝要だ。

大事なことは、PDCA(Plan-Do-Check-Act)を機敏に回し、改訂のつど目標達成への強い動機を持つことだ。そうすれば、仮に当初目指した目標に達しないことはあっても、意図した計画地点には必ずたどりつく。その点から言えば、事業計画に失敗はありえない。

「出来上がったプランに、心が躍るか?」事業計画立案の成否は、この一点にかかっている。