M4 外国人の上司や部下は苦手ですか?


海外赴任を命じられ現地法人に勤務する、外資系企業に転職する、会社が外資系企業に買収されるなどから、今や職場で外国人の上司や部下を持つことも珍しくはないだろう。外国語でのコミュニケーションは勿論、彼らとの仕事や物事に対する考え方の違いに戸惑うことも多いかもしれない。このような職場では、何を心がけたら良いのだろう?

国柄による異文化対応は個々に異なろうが、20年余り外資系企業に身を置いた私の経験からは、日本人が押しなべて心すべき留意点があるように思う。①「自分の立ち位置を明確にする」、②「論理的に伝える」、③「“違い”を受け入れる」、④「仕事のアウトプットで勝負する」の4つだ。

    「自分の立ち位置を明確にする」:日本人は、職場を含め、公の場で自分の意見を表明するのが苦手だ。日本社会特有の文化によるものだろうが、相手が外国人だと、彼らにフラストレーションを溜め兼ねない。取り組む課題やテーマに対する自らの立ち位置(考えや立場)を出来る限り明確にすることが肝要だ。

なかなか明確にし難い場合でも、先ずは自分なりの仮説を持つ。それをもとに周囲との会話を進め、共同して目指すべき結論(最適解)へと導く。これがグローバルコミュニティでのコミュニケーションの基本である。

    「論理的に伝える」:話は分かり易いことが第一、それには論理的であることだ。文化や価値観の共有度が高く、お互いの共通認識を前提として会話が進む(ハイコンテクストと呼ばれる)日本社会では、仕事上の会話が情緒的に進むことも多いだろう。しかし、その逆のローコンテクスト社会では論理的に伝えることが必須だ。

お手本は、ChatGPTChatGPTに質問すると、おおよその回答は箇条書きに整理され、最後に結論が示される。これが論理展開「ロジックツリー」の基本だ。(余談だが、返答の冒頭によく使われる「なかなか鋭い質問ですね」などの返しも参考にしたい点である。)

英語力は高いに超したことはない。ただし、ネイティブ並みに話せなくても、事実と意見が齟齬なく伝われば合格である。実際、多国籍企業での共通言語はブロークン・イングリッシュだ。私が勤めたフランス企業のCEOの英文メールは三単現のsが抜け落ちるのが常だった。

    「“違い”を受け入れる」:異なる文化を持つ相手と仕事をする際は、さまざまな“違い”に目が行きがちである。学びも多いが、逆に「信じられない!」と戸惑いを禁じ得ないこともあるだろう。どこまでの“違い”を受け入れられるかは、これまでに沁みついた既成概念をどこまで打ち破れるかと同義だ。

以前、チュニジア人のエンジニアを採用したことがあった。彼は、毎日決まった時間に床にひざまずき一定の方角に向かって礼拝することを日課としており、これを仕事より優先するため職場に少なからぬ混乱を招いた。職場が彼の行動を理解し受け入れるにはそれなりの時間を要したが、それ以降は彼も職場も優れた成果をあげられるようになった。「受容は最大の対人影響力」とも言える。

    「仕事のアウトプットで勝負する」:どんな職場環境にあっても「プロとしてのアウトプットが出せる」ことが大前提だ。外国人と仕事をする上では、特にこれが問われる。職場で円滑な人間関係を構築するにも、「自らの職務で周囲が認める価値を出す」ことが大事だ。これが曖昧だと、どんなに意思疎通と他者理解に気を配っても上手くはいかない。

グローバルな職場では、日本で(暗黙のうちにも)重きが置かれる年齢や出身大学などは支えにならない。純粋に実力と成果が問われることを心して、自らの領域で「世界で闘える力」を鍛えたい。

外国人の上司や部下を持つことは、自分自身を見つめ直すと同時に、これまでの偏狭な既成概念を打ち破る絶好の機会を与えてくれる。グローバルで多様な価値観が入り混じる職場に塗(まみ)れれば、人としての器も大きくなるだろう。果敢に挑んで欲しい。

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