M0 時間と争うことなかれ!


学生時代に試験で時間がなくなって、落ち着けば解ける簡単な問題が解けなかったというイヤな想い出はないだろうか。私は幾度となくある。何事もそうだが、時間に追われてバタバタやったことに出来栄えの良いものはない。残念ながら「人間は時間と争うと負ける」というのが、私の認識だ。

職場においても、時間は大切だ。年度予算の達成、プロジェクトの納期、会議資料の締切りすべてが時間の制約の中で動く。事業の成果は金額で測ることが多いが、同じ成果を「時間」というモノサシで眺めると、また違った景色が見えてくる。

営業活動を例に取れば、売上は金額だけでなく「いつ」上げるかが鍵を握る。売上予算を達成するためには、営業活動は年度初めからフル回転が鉄則だ。業界や製品によって受注から売上を計上するまでのタイムラグが異なるので一概には言えないが、メーカであれば、期の半ばには当年度末の売上目標には目途をつけたい。後半になれば年度内に売上計上される受注案件が限られてくるからだ。

その上で、期の後半は翌年度以降の売上の仕込みに活動をシフトする。営業が強い会社ほど、時期に応じた活動の色分けが鮮明だ。時間軸上に的確な戦略指針を示せるかに、経営力の差が出る。

プロジェクトマネジメントでも、工程(=時間)管理は生命線だ。工程の乱れはコスト増に直結する。一方、工程を乱さないためには、万全な品質水準を確保する必要がある。工程管理を軸にプロジェクトマネジメントすることが、品質とコストの双方の改善を促す。プロジェクトマネジメントとは「時間を制する」ことと同義と言っていい。

工場運営もまた同じだ。単なる出来高や生産量ではなく、マン・アワー(作業人数×作業時間)を追うことで、ライン毎の稼働状態と生産性が見えてくる。「時間をどう使っているか」を見つめ直すことで、仕事の質が浮き彫りになる。

では、私たちはどうすれば時間に追われずに働けるのだろう。世の中には時間管理術の本が溢れているが、結局のところ答えはシンプルだ―「時間と争うな!」。早めに着手し、余裕をもって終える。これに尽きる。

過ぎ去った時間は、永遠に戻らない。ゆえに仕事も人生も、時間と「競争する」ものではなく、「協奏する」ものだ。自分の時間だけでなく、他人の時間の扱いにも細心の注意を払いたい。例えば不用意に待ち合わせ時刻に大幅に遅れたりすれば、相手にとって取り返しのつかない時間を奪うことになる。時間と協奏するとは、他者の時間も含め、絶え間ない時の流れの中で「今この瞬間」に集中し、自分のリズムを適切に保つことだ。

世の中には、かかった時間をベースに値段が決まるサービスも氾濫している。プロジェクトの契約にも、万一の遅延に備えてペナルティーを支払う条項が盛り込まれる。このようなことから、時間もお金で買えるように思うかもしれない。しかし元来、時間には値札が付けられないものだ。

時間とどう向き合うかは、どう生きるかに通ずる。人も組織も、時間の扱い方にその成熟度が現われる。心に留めたい。


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