M0 あなたは、日に何回 Mx. シャドーに出会いますか?


あなたは、Mx.シャドーに一日何回出会うだろうか。歳を重ねるほど、その回数は増えていくように思う。ここで言うMx.シャドーとは、「お陰さま」という感謝の対象となる人や出来事のことを指している。私たちの生活の陰(shadow)にいて、そっと支えてくれる見えない恩人である。

人は、思いがけず良い結果を得たとき、また、誰かの支えに気づいたとき、自然と感謝の念を抱く。感謝の対象は人だけでなく、日常の出来事や自然の恵みにも及ぶ。その根底には、「有難い」という気持ちと同時に、自分では制御できない大きな力への畏れのようなものがある。その思いを包み込む言葉が、「お陰さま」だろう。


「奇跡を起こす方程式」を唱える人がいる。阪神淡路大震災をきっかけに、五十九歳にしてプロゴルファーとなった古市忠夫さんだ。彼はその後の人生を通して、「奇跡=才能×努力×感謝力」という関係を信条としている。


この式で注目すべきは、「感謝力」が掛け算の一因である点だ。いくら才能があっても、努力を重ねても、感謝力がゼロなら奇跡は起こらない。感謝とは、自力を超えたものにつながる他力への気づきである。古市さんは「真の勇者は感謝できる人」と語っている。

感謝に「力」をつけるという発想は示唆に富む。感謝できること自体が一つの能力であり、意識的に磨ける資質でもある。我々は、当たり前に感じている日常の裏側に、どれほど多くの支えがあるかを見過ごしがちだ。失って初めて気づく「お陰さま」も少なくない。コロナ禍で移動や交流が制限された時期、これまで当然と思っていた出来事が、いかに多くの人や仕組みによって支えられていたかを思い知らされた人も多いだろう。

私自身、会社の代表職に就いてから、Mx.シャドーに出会う回数が一気に増えたように思う。会社の営みは、社員や取引先、顧客、地域社会など、無数の人たちの協働によって成り立つ。自分一人では到底成し得ないことを仲間が支えてくれて、代表者としての立場が成立している。会社の営みそのものが、「お陰さま」の連続であることを実感した。感謝の念は人と組織をしなやかにする。

「感謝力」を身につけるには、感謝の対象に気づく感度を上げる必要がある。これは心構えだけでなく、訓練によっても高められる。たとえば、毎晩その日に感謝したことを三つ、どんな小さなことでも紙に書き出してみることだ。書く行為は意識を定着させ、感謝のアンテナを研ぎ澄ます。これを習慣にすれば、日々の中で自然とMx.シャドーに出会う感度が高まっていく。

心からの「感謝力」を持つ人は、Mx.シャドーに頻繁に出会えるようになる。Mx.シャドーは特別な存在ではない。家族の言葉、同僚の助け、涙を乾かすそよ風、背にあたる陽の温もり――そのどれもが、我々を静かに支える見えざる存在である。感謝の心を育むことは、世界を穏やかなものへと変えていく最初の一歩と言ってもいい。


(註)Mx.は、Mr.Mrs.MissMs.のように性別や婚姻の有無を特定しない、人につける英語の敬称。

コメント