経営トップの悩みの中で、最も基本的、かつ本質的な悩みを上げるなら、「組織が自分の意図するようには動かず、計画した成果が出ない」ことが上位に入るだろう。これには二つのチェックが必要だ。一つは自分が出した方針や指示が組織の末端まで伝わり切っているか。もう一つは組織メンバーにそれを実行するだけの力量と動機づけがあるかだ。リーダーが組織を有効に機能させるには、この二つへの対処が必須だ。
これらを念頭に会社組織が整合した行動指針の下、意図した成果を出すには、MBO(Management By Objectives:目標管理制度)の運用を徹底することが基本だ。「徹底する」というと、管理を強化してやり切らせると捉える人が多いかもしれないが、MBO運用の成否は、社員の考えや思いを尊重し会社が掲げる目標と整合させた上で、「やらされる意識」を如何に「自らの意志でやる意欲」に転換できるかにかかっている。
同時にMBOの実践には、経営トップ自身が社としての重要施策の実行にハンズオンで関わることが欠かせない。トップのこの姿勢が組織を揺り動かし、メンバーの目標達成意欲を駆り立てる。
一般に経営トップは、大所高所から会社の行く先や戦略を示すことが役目で、具体的な成果を出すのは実務部隊の責任と考えがちである。会社の規模が大きくなるほどこの傾向は強まり、経営と事業現場の距離が遠くなる。しかし、これではトップが意図した戦略に魂(=メンバーの実行にかける意志)が入らない。トップにとっても、自分が出した方針の実行を現場任せにするだけなら、結果に対する手ごたえは得られないだろう。
「実行にハンズオンでかかわる」と言っても、何にも全ての現場に手当たり次第にかかわること(マイクロマネジメント)を意味するわけではない。先ずは社運に関わる重要施策を対象に、最前線の現場の実態を直接知り、実働部隊が動きやすいよう支援することだ。
現場で重要な施策が行きづまる時は、①人・物・金の経営資源が不足している、②大きな視点からの方針が共有されていない、③複数部門の人からなるチームの求心力がしきい値を超えていないなど、経営トップが直接かかわることで事態が大きく進展するケースが多々ある。現場に直接関われば、社長室で間接的に報告を聞いて判断するのとは比べものにならないほど、機敏で的確な事業運営が可能となるだろう。
事業運営において経営レベルで大事なことは、現場に下ろした際にも同等に大事だ。経営の意志は現場で結実し、現場の成果は経営の下に統合されて価値を生む。特に社運を左右するような最重要課題には、経営と現場を一気通貫で見通せる経営トップの関わりが欠かせない。
ある時、ある経営者の方から、「私は方針は出しますが、現場の事には出来る限り口を出さないことにしています。それで上手くいかなかった時は、私が責任をとって辞めればいいだけですから・・」という投げやりとも取れる言葉を耳にしたことがある。
責任は、自らがかかわりコントロールできるからこそ、果たせるものだ。社長の責任を彼のように捉えるなら、社長職のやりがいも、達成感も得難いだろう。だが日本企業(の一部)では、社長は組織の神輿(みこし)の上に乗り、運が良ければ安泰で、不祥事が起きた時には責任を取らされる職との認識が未だに根強い。
本気で事業責任を果たす覚悟なら、社としての重要案件には経営トップ自らが現場に踏み込んで、結果がでるまで支援する。それこそが経営の醍醐味であり、社長の仕事と心得たい。
(関連留考録)
- M0 社長、それはあなたの仕事です!
‐ M4 MBO・目標管理は正しく使えますか?
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