解決の糸口が見えないロシア・ウクライナ戦争だが、「戦争を含む国家間の関係を知る鍵は、地球上の地理にある」と言われたら、すんなり納得するだろうか?
『地理が「檻」だとすれば、国は「囚人」。囚人に何ができて、何ができないかを知るには、まず檻の形を知らなければならない』とするのは、「あの国の本当の思惑を見抜く地政学」(サンマーク出版)の著者・社會部部長(ペンネーム)さん。本書で語られる地政学の主たる見識は、
① 世界の国々は大陸国家(ランドパワー)と海洋国家(シーパワー)に二分でき、これらの背景を持つ国々の勢力争いが国際情勢を動かしている
② 大陸国家(ロシアや中国、ドイツなど)は攻撃しやすく(されやすく)、山や川や平地などの「地形と距離」が国防を左右する
③ 海洋国家(日本や英国、米国など)は防御しやすく、大陸国家からの脅威を軽減できる。しかし、大陸で覇権国家が出現すれば脅威となるため、常に大陸国家間の「パワーバランスを保つ(覇者を出さない)」関与が必要となる
④ 自国が攻撃される不安感から軍備を整えれば、相手国も同様の不安から軍備を増強し軍拡が進む。双方共に攻撃の意図がないにも関わらず戦争の可能性が高まる罠(=安全保障のジレンマ)に陥る
というものだ。
大陸国家の典型であるロシアは周辺国と(侵攻が容易な)平地でつながっており、これまでに幾度となく侵略の脅威に晒されてきた。特に仏のナポレオン(1812年)と独のヒトラー(1941-45年)による侵攻は、ロシアにとって忘れ難きトラウマとなっている。
ロシアがこの種の脅威を軽減するには、領土を拡大し、潜在敵国を首都モスクワから遠ざける共に、近隣に「緩衝(中立)国」を持つことが欠かせない。ロシア・ウクライナ間では民族意識、歴史背景、政治体制の違い、さらにはプーチン大統領の野望などが取りだたされがちだが、ソ連崩壊後のロシアにとって、ウクライナは正にNATOとの緩衝国であり、ロシア・ウクライナ戦争の争点はここにある。
加えてロシアは、北は北極海で大半が氷で覆われ、その他の港は全て内海に面していることから、外洋への出口が塞がれている。ロシアがクリミア半島に拘るのも、この地形上の不利益を少しでも解消したいがためと言える。
他方アメリカは、ユーラシア大陸国家から見れば海洋国家であり、前述の見識③に基づけば、かつてのドイツやソ連が目論んだような覇者を生まないよう、その都度潜在覇権国に対抗する国々を支援し、大陸でのパワーバランスを保つことが重要となる。
これまでアメリカが世界の警察として振舞ってきたのは、それが大局的に見て自国の国益に叶っているからだ。トランプ政権になって、目先の損得勘定から大陸の同盟国との安全保障のあり方を見直す動きにあるが、地政学的見地からは、アメリカが今のような自国ファーストに徹すれば、アメリカのみならず世界の将来を危うくする可能性は否めない。
我が家の愛犬フー(中型のビーグル)は、散歩中にチワワなどの小型犬にキャンキャン吠えられても平然としているが、シェパードなどの大型犬に出くわすと逆に歯をむき出しにして唸り声を上げる。やられるかも知れないと思えば、身構え攻撃的になるのは、犬も国家も同じだ。
国際紛争は必ずしも「悪意の衝突」ではなく、根底には「自国の生存を脅かされる恐怖」がある。四方を海で囲まれ国境を持たない日本の民には、幸か不幸か、この感覚が鈍い。
国と国との関係の背景には、人種や宗教や文化や政治体制だけでなく、その国が抱える地理的条件が大きく関係している。これをお互いに理解し他国の実情を知った上で、特に地理的に不利な環境にある国家とは相互不可侵の取決めを交わすなどして無用な「安全保障のジレンマ」を解消することが、世界を共存共栄に導く第一歩となるだろう。地政学がそれを明確に物語っている。
(推薦図書)
「あの国の本当の思惑を見抜く地政学」 社會部部長著 サンマーク出版刊
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