M2 「ゆでガエル」には外の仲間と温度計



少しずつ進行する病は捉えにくい。よほど注意していないと、気づいた時には手遅れになりかねない。企業の病も同じで、社内では捉えられない、あるいは捉えても悪さの程度に鈍感なうちに、徐々に進行する大病がある。いわゆる「ゆでガエル」症候群だ。実際、次のようなことが起こり得る。

-一部の製品の利益率が徐々に下がり、今や粗利益も出ていないのに、売上が小さいことから何も手が打てていない。
-慢性的なマンパワー不足でミスが多発しているのに、コスト削減が優先されて人員が補強されず、トラブルモードから脱出できない。
-全社プロジェクトは、意図した成果が得られなくても誰も責任を問われず、評価がうやむやのままに、また新たなプロジェクトが始まる。
-年度の業績報告に不自然な点があっても、上からの指示と長年の慣習から是正できず、ある日突然不正会計の実態が明るみに出る


問うべきは、何と言ってもトップの経営資質だ。しかし、根底には「これはどうにもならない」とあきらめていたり、さらには「これが普通だ」と心のどこかで容認してしまう組織の心理状態がある。これこそが「ゆでガエル」症候群だ。これを克服するには、①「外のカエル(仲間)からの見識を得る」ことと、②「池の各所に温度計を設置する」ことの2つが欠かせない。

    外のカエル(仲間)からの見識を得る
社内では見えない問題も、社外の視点からは一目瞭然ということは多い。職場で一部の人が「おかしい」と感じても、入社以来今の会社のことしから知らない社員が大半なら、「世の中こんなものか」と思い込んでしまう。そんな時に「他社ではこんなことはありませんよ!」という外部の指摘は、何よりの警鐘となる。

中には耳の痛い指摘もあるだろう。しかし、そこにこそ突破口がある。意見を求める相手は、社内事情にある程度精通していて、外の世界を広く知る人ほどいい。特に経営トップは、あらゆる機会を通じて外部の声に触れ、経営判断の糧にすべきだ。

私自身、外資系企業の社長時代、顧客やライセンス先・業務委託先企業の経営者、幹部社員研修の講師、さらには長期雇用の派遣社員にまで、「ほかと比較して、うちの会社におかしな点はないか?」と、しつこいほど尋ねていた。内部の常識は、外部の目にさらして初めて正される。

    池の各所に温度計を設置する
池の温度を知るには、体感に頼るだけでなく、温度計が必要だ。企業も同じで、変化を正しくつかむには客観的なデータが欠かせない。製品毎の売上や利益率などの業績数値だけでなく、顧客満足度や部署毎の社員の意識調査結果の推移なども大事な指標となる。

どんな指標(KPI)を選ぶかは会社によって異なるが、その選択にこそ経営力が問われる。上手く行っている会社は、職場の随所に事業の健全性を計る「温度計」を埋め込み、データ(Fact)をフォローしている(参照:「M2 KPIは上手く使えますか?」)。

経営判断には、外部からの指摘とFactに基づくデータが必須だ。しかし、いくら外の仲間からアドバイスを得ても、客観的なデータを目にしても、これらを理解する力と自らを変革する力がなければ、カエルはやはり、ゆで上がる。

情報収集・分析の仕組みを整えるとともに、最後はカエルの命はカエル自身の経営判断力にかかっていることを心して、常にこれを磨く努力を怠らないようにしたい。

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