M4 MBO・目標管理は正しく使えますか?


事業運営に血を通わせて結果を出そうと思うなら、MBOManagement By Objectives:目標管理制度)の運用を徹底することだ。MBOは「事業目標への社員の納得感を高め」、「信頼で結ばれたチームを築き上げ」、「メンバーの成長を促して」、「事業成果を出す」、事業運営にとって必須のツールである。

ところが、多くの職場でMBOは「社員を締めつけて、無理な目標を達成させる忌々(いまいま)しい制度」のように捉えられがちだ。MBOは、本来の目的と運用実態がなぜこれほどかけ離れるのだろうか?

原因はズバリ「社員のモノ化」にある。トップが業績目標を一方的に組織に下ろし、現場の実態や社員の意見を顧みない。実行部隊も無理な目標に言葉だけの計画を添えるので、活動に自らの心が伴わない。ひとたび年度が始まれば、数値目標だけがチェックの対象となり、上からの物心共のサポートも得られない。

このような職場では上司自身も「モノ化」されており、部下を人として尊重するキャパがない。ここに成果主義の名のもとにMBOが導入されると、本来の目的とは真逆の効果をもたらすことになる。

本来MBOは、組織が掲げるべき目標を各階層で吟味・最適化し、社員ひとり一人が上司と協議の上自らの意思で目標を立てて、組織と個人の目標を整合させるところに眼目がある。この種の意思疎通には時間がかかる。しかし、複数の人が同じ目標に向かって協力し、個々人の力を最大限に発揮しようと思うなら、これには時間をかける覚悟が必要だ。

そのために組織が持つべき技量は、上司の「プル型コミュニケーション力」。プル型コミュニケーション力とは、傾聴やコーチングに代表される相手の考えや思いを引き出し受け止める意思疎通力のことだ。根底には確固たる「人材育成マインド」が欠かせない。

MBOを正しく機能させるための上司のチェックリストを以下に示す。
・ 部門の方針を分かりやすく記述する
・ 部門方針に上位(会社)方針を適切に反映する
・ 部門方針には、(上位方針に加えて)部門長としての自らの方針を示す
・ 方針を浸透するために、口頭(ミーティング)にて関係者の理解を得る
・ 部下の目標設定のために、部下と共に十分な時間を使う
・ 部下の希望・意欲を汲み取り、部門方針と整合した目標設定ができるようサポートする
・ 目標が達成された時の状態を、(数値だけでなく)具体的なイメージで部下と共有する
・ 部下の目標と計画を達成に関わる関係者の間で共有する
・ 期中に定期的に目標をレビューして、進捗をフォローし、部下の活動をサポートする
・ 期中の予期せぬ環境・事情の変化に際して、目標を適宜改訂、再設定する

このように記すと、多くのきめ細かい活動が含まれることが分かる。加えて、相対するのはモノではなく「人」であることから、これらの行動には自ずと上司の人としての魅力が問われる。

日本の会社員は上からの指示に「義務と責任感」で対処しがちだ。この気持ちが膨らみ過ぎると、自分が大切にしている思いや考えを殺してまでも上を忖度することになり兼ねない。仕事は本来、自らの「使命感と歓び」で取り組むものだ。同じ目標でも、「やらされる」のか、「自らの意思でやる」のかでは大違いだ。

「自分が立てた目標に、心が躍るか?」 MBOを正しく使えば、日本の職場は大きく変わる。


(関連留考録)M2 その事業計画に心が躍りますか?

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