M1 コンセプト図を描ける力を持つ


 
コンセプト図とは、理解や考えや提案など、さまざまなテーマの概念を表す図のことである。経営リーダーが仕事の中でコンセプト図を的確に描けるようになると、リーダーシップ力が格段にアップする。たかが「お絵かき」と思うなかれ、コンセプト図を描く力の効用は大きい。

最大の効用は二つ。一つは思考が進み整理され、自分の考えや主張に自信が持てることだ。思考は単にアタマの中でグルグル巡らせているだけでは進み難い。先ずは現時点での思いや考えをかき出してみることだ。この際、文章にして書き出すことも有効だが、テーマが複雑で広範な要素を含む場合は、図に描くと思考が一段と深まる。

例えば、「トランプ政権が率いる米国の危うさと世界秩序の行方」とか、「水素エネルギー社会の到来とインフラ整備の課題」、「10年後の社会変化と事業環境を見据えた当社の構造改革指針」といった多方面からの検討が必要なテーマの検討は、コンセプト図を描きながら進めると洞察が深まる。

また、「いかに生きるか?」といった哲学的テーマも、さまざまなインプット(教訓)をそのまま頭にしまい込むのではなく、それらをまとめてコンセプト図に落とすと自分なりの理解(哲学的思考)が進む。

コンセプト図を描くには、自分の考えだけでなく、背景や関連事項の鍵となるポイントを単語や短いセンテンスでかき出し、それらの関連性を図形や線や矢印を使って表す。関連性には、補完、対抗、包含、重層、循環、発展、代替、原因、結果等など、さまざまなものがある。これを各種の図形とそれらの配置を工夫して描き表す。

ある程度図が出来たら、それを俯瞰して「だから何なのか?」、「そこから一体何が言えるのか?」と、事象や考えを包括する枠組み(フレームワーク)を探ってみる。これによってテーマの本質を捉えるための概念化が促される。

当然ながら一発でこのような図が描けるわけではない。通常何度も改訂を繰り返して完成にたどり着く。実はこの改訂プロセスこそがコンセプト図の真価であり、思考を推し進める手段となる。最終的に、取り上げたテーマが関連する事柄と共に包括的に整理され、一見してスッキリした図が描ければ合格だ。

このようにして描いたコンセプト図のもう一つの、そしてより大きな効用は、意思や情報伝達の強力な手段となることだ。しかもコンセプト図は不特定多数の人へのコミュニケ―ション手段としても優れている。

人は言葉を介して理解するのには限界がある。理解を促すには、言語脳と言われる左脳にプラスして、イメージ脳と言われる右脳に働きかけることが肝要だ。

ある時、某企業のトップが作成した文章資料10数枚にわたる事業計画書のドラフトを拝見したことがある。内容は精緻で納得性の高いものだったが、文章で理解するには若干の努力を要した。そこで重点施策で攻めるポイント3つと守るポイント3つを挙げ、それらの意図と期待する成果、中期計画との関連性を1枚のコンセプト図にして資料の冒頭に挿入してもらった。極めてシンプルな図だったが、発表後この図が社内で頻繁に引用されるようになり、事業計画の浸透に大いに役立った。

図は文章より見た目のインパクトが大きい。上手く描かれたコンセプト図は、大勢の人の理解を集めて共通認識の御旗(みはた)となり、求心力を高める手段とさえなり得る。

コンセプト図の出来栄えは、描いた枚数に比例する。上達のためには当面の上手 / 下手は気にせずに、先ずは描いてみることだ。的確なコンセプト図が描けるようになれば、リーダーとしての力量が確実にパワーアップしたことを実感できるだろう。


(関連留考録)
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