M1 アインシュタイン脳の秘密「右脳を開く」

 


アインシュタインはヴァイオリニストだった。卓越した論理性に加え、空間に広がるヴァイオリンが奏でる音への感性が、アインシュタインを不世出の物理学者にした。論理のみに没頭していれば、難解な数式の項目をにらんで、ビックバンによって宇宙に広がった重力波が今も地球に降り注ぐイメージを脳裏に焼きつけることは難しかったのではないか。私は、勝手にそう思っている。

人間の脳が左と右で機能分化していることは、つとに知られている。左脳は、理性、論理、分析、言語などを司り、右脳は、感性、直感、統合、イメージなどに係わると言われている。しかし、神経細胞活動を時系列で追う近年の脳研究からは、これらの所作には脳の左右両方が使われていることも分かっている。人間は左右両側の脳を応分に使うことで、思考を深めたり飛躍させたりできるようだ。

現在の学校教育は、国語、算数、理科、社会に代表される左脳偏重だ。社会でも、論理や計算など左脳系の力が重視される傾向にある。事業経営も、合理性や効率が求められ、結果も数値で語られることから、左脳主体になりがちだ。しかし、元来はもっと右脳を使うべき活動である。特に、ビジョンや中長期計画の策定には、右脳力が問われる。未来を予測し、なりたい姿を示し、そこに達する道筋を描くには、予兆となるデータを分析して論理的に考えるだけでは足りない。見えないものに対する直感やイマジネーション、さらには感性や想いなどを総動員する必要がある。

残念ながら現実は、中期計画でさえも左脳主体でつくられることが多い。多くの企業の中期目標は、過去からの業績をベースに、施策毎の数値を積上げてつくられる。活動や結果に具体的なイメージが湧かないままに、期待値だけを積み増すことも少なくない。計画書には、IoT、AI、ビッグデータ解析、CO2フリー、iPS細胞等々の時流に乗ったキーワードは並ぶが、活動内容はともすると左脳で書く作文に終わりがちだ。将来を構想する力と、そこに向かって突き進む想いの強さが欠如している。左脳に散在する言葉や数字だけが先行し、右脳の感性が置き去りにされている感じだ。

現在の左脳偏重の教育と社会が、生まれ持った右脳を十分に開発し切れておらず、「我々は与えられた全脳をフルに活かし切っていない」。そんな気がする。脳は、筋肉と同様、何歳になっても使えば活性化することも分かっている。これからの経営リーダーは、音楽、絵画、陶芸、写真、アニメなどの分野にも通じ、「右脳を開く」ことにもっと注力して欲しい。これまで一見関係が薄いと思われてきたこれらの領域での生活行動が、思考を深め、飛躍させ、未来を切り開くパワーになる。

アインシュタイン脳は、宇宙の神秘に迫るだけでなく、人間の潜在能力のさらなる可能性をも示唆している。