M5 職場のコミュニケーションで心すべきは「理解」と「共感」


人が話す際には、いくつかの動機や目的がある。出来事や事実などの「情報を伝達する」、歓びや苛立ちなどの「感情を表す」、依頼や指示などの「働きかけをする」、さらにはさまざまな局面で「自分を守ったり、相手を攻撃したりする」手段などとしても対話が用いられる。


コミュニケーションは日々の生活と一体であり、その都度これらの動機や目的を意識しているわけではないだろう。極めて自然な生活行為である一方、コミュニケーションが原因で仕事でミスが起きたり、人間関係に亀裂が生じたりするのが世の常である。職場でもこの難しさを実感している人は少なくないと思う。


職場でのコミュニケーションには、メンバーが共有すべき大事な前提がある。「職場のコミュニケーションは仕事」という認識だ。コミュニケーションは極めて自然な生活行為なので、改めてこの認識は持ちにくいかもしれない。しかし「職場でのコミュニケーションは、紛れもなく仕事の一部である」。相手への苦手意識や好き嫌いの感情などからコミュニケーションが適切に取られなければ、経営はおろか、事業活動そのものが成り立たない。


こう捉えると、仕事としてのコミュニケーションの目的も明確になる。相手の「理解」と「共感」を得ることである。職場は多くの人からなる分業で成り立っている。各人が何を意図して、どう行動するかを互いに正しく認知する必要がある。


そのコア要素となるのが「理解」と「共感」。どちらか一方だけでは不十分だ。職場が動くには、メンバーが事実や考えを正しく理解した上で、協調行動が誘発されるだけの共感が伴わなくてはならない。仕事を行うには、冒頭のさまざまな動機や目的に惑わされることなく、この二つを適切にはたせるコミュニケーション力を身につける必要がある。


相手の「理解」を得るのは、発信(プッシュ)型のコミュニケーション力に依る。その際留意すべき基本は、①「話が順序立っている(=ロジカルな)」こと、②「複雑すぎない(=シンプルな)」こと。そして③「事実に基づいている(=ファクトベースである)」ことだ。事実に基づく内容なら納得感が高まり、理解度が増す。「ロジカル」、「シンプル」、「ファクトベース」の3つが理解を得るための基本要素と心得る。


一方、「共感」は、理解と異なり、双方向の心の動きを伴う。まず相手の心情を推し量り、それに寄り添う姿勢が大事だ。したがってプッシュ型のコミュニケーションだけでなく、「傾聴」に代表される受信(プル)型のコミュニケーションスキルが欠かせない。同時に、共感は同感とは異なり、相手との一定の心の距離間も大事となる。技量としての奥は深いが、共感を軽んじてはコミュニケーション能力を高めることはできない。


理解と共感の先には、「信頼」がある。我々はコミュニケーションを交わす度に(無意識のうちにも)相手との信頼関係を更新している。ちょうど銀行の預金口座に似ている。毎回のコミュニケーション如何で相手との信頼のディポジット(預金)がプラスになったり、マイナスになったりする。それまで一定の信頼関係が積み上がっていれば、時に意思疎通に多少の齟齬(そご)があっても基本的な信頼が損なわれる(残額がマイナスになる)ことはないだろう。コミュニケーションの度に相手との信頼ディポジットが増すような関わり合いが肝要だ。


理解と共感は、人間社会の絆を強くする。職場でのコミュニケーションと自らのコミュニケーション力を「理解」と「共感」の視点から見直したい。




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