M10 デジタル社会変革(3) SDX が拓く新たな地球社会


 

デジタル社会は今より格段に効率的な社会になるだろう。しかし、デジタル社会変革( SDX:ソーシャルデジタルトランスフォーメーション)はここが終着点ではない。この先には、これまでの民主主義や世界秩序のあり方までも変え得る可能性を秘めている。

民主国家の意思決定は、通常、代議員制による。しかし、これは国民ひとり一人の意思を国政に反映する方法としては、必ずしも精度が高いわけではない。あまたの議案に対し、代表者が個々の支持者の意見を全て代弁できるわけではないからだ。一方、今や SNS は膨大な端末の膨大な情報をさばき切る。これを使うことで、国民が政治に直接参加することが可能となる。エストニアでは、すでに政府が閣議に上げる議案や法案を事前にポータルサイトにアップし、国民の意見を直接吸い上げている。デジタル社会では、我々が TV で半ば傍観者的に観ている国会や委員会のあり方も変わり得るのである。

エストニアは、世界の人々にエストニア「電子居住権」( e-レジデンシー)持つことを認めている。居住権と言っても、国内に市民権や永住権があるわけではないが、オンライン上で政府からの個人認証が得られ、法人を登記することができる。これに法人認証用電子印鑑( e-シール)を取得すれば、EU 圏でビジネスを行うことが可能となる。現在時点での電子居住者数は150カ国以上から約5万人、登記法人数は約5,000社。今後、居住者を1千万人規模まで増やす計画と聞く(註:エストニアの現在の人口は約130万人)。


エストニアの電子国家システムは、湾を挟んだ対岸のフィンランドともつながり、デジタル連邦を形成している。世界の国々でデジタル社会転換がエストニアレベルまで進めば、ネットワークはさらに広がり、連邦は地球規模に拡大し得る。連邦国の国民と電子居住権者は、自国に加えて、サイバー上のもう一つの地球社会に生きることになる。現在
SNS 上で友だちとつながり、オンラインショッピングをするのと同じように、近い将来、個人と連邦国の間も地球サイズの電子サービスでつながるだろう。


近年、リアル社会では大国の自国中心主義が目立つ。しかし、世界はもはや一国単位では成り立たないことは明らかだ。自国ファーストを唱え続ければ、早晩、自らの首を絞めることになるだろう。世界がデジタル連邦というサイバーシステムに包まれ、そこでの人々の活動が活発になれば、地球上に描かれた国境線はさらにかすむ。国民国家を超えたサイバー社会が、リアル社会の国際関係にもプラスに働く可能性に期待したい。