職場で意見のとりまとめに苦労している人もいるだろう。グループの合意形成は、メンバーが多いほど、彼らが抱える背景が多様なほど難しくなる。これを克服するスキルにファシリテーションがある。この技量を学べば学ぶほど、ファシリテーション力が今の日本の職場改革の決め手になると思えてくる。
日本の職場は、とにかく物事が決まらない。決まったと思っても直ぐには行動が起きない。結局、誰が決めたかさえもウヤムヤになる。もちろん、全ての職場を指しているわけではない。だが、一般論としても「会いして議せず、議せずして決せず、決せずして行わず、行わずして責をとらず」とは、よく言ったものだ。これでは、何をやっても生産性は上がらないだろう。
これを刷新し得るのが、ファシリテーション力だ。ファシリテーションの大まかな流れは、①場を「つくり」、②意見を「引き出して」、③考えを「発散させ」、④議論を「収束させる」の4ステップからなる。ファシリテーターはメンバーと共にこのプロセスを推し進め、途中で生じる「対立をマネイジ」する。必要なスキルは、分析力、要約力、類推力、仮説思考力、概念化力、プッシュとプル両面のコミュニケーション力など、思考と意思疎通にかかわる力を中心に、細かく上げれば30以上にもなるだろう。
しかし、真の職場改革を促すファシリテーション力には、スキル以上に大事な力量がある。メンバーへの信頼感、育成マインド、さらには職責を超えた平等性といった、「相手を人として尊重する心の置きどころ」がしっかりしていることだ。ファシリテーターがもつ人間観と言ってもいい。これがヤワだと、降りかかる対立を上手くマネイジできない。相手の言うことを話半分に聞いて頭から否定していたら、ファシリテーションにはならない。
職責が上がるにつれて、現場が遠のく。それに伴い、指示を出して報告を受けることで仕事が回ると錯覚しがちになる。上司が自分の指示が現場でどこまでの納得と共感を得ているかに無頓着だと、思い込みが強くなり、疑心暗鬼に陥りやすい。それがもとで事が上手く運ばないと部下との信頼関係が損なわれ、人心が離れることにもなりかねない。こうならないためには、ファシリテーション力を身につけることだ。
真のファシリテーション力は、深い納得感を伴った合意形成を可能にする。リーダーが質の高いファシリテーション力を持てば、信頼で結ばれたチームづくりにも、相互理解を通したメンバーの成長促進にも寄与するだろう。何よりも人のこころに活力が満ちてくる。日本の職場改革は、ファシリテーション力の鍛錬に活路があるとみる。
関連図書:
・ 「ファシリテーション入門(第2版)」 堀公俊 著 日経文庫
・ 「リーダーのための!ファシリテーションスキル」 谷益美 著 すばる舎
・ 「ファシリテーションの教科書」 グロービス 著 吉田素文 執筆 東洋経済新報社
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