M0 スキルが行動を呼ぶ



「もし金づちしか持っていなければ、全てものがクギに見える。スキルの有無が人の行動を制限することを伝える、こんな英語のことわ*1がある。人は苦手なこと、スキルがないことはやりたがらない。逆に、スキルがあれば行動は起こしやすくなる。


計画立案が得意なら事業戦略を吟味したくなり、経理が得意なら財務諸表を診たくなる。人事に長けていれば、職場のモチベーション対策が気になるだろう。逆に不得手な事にはなかなか手が出ない。ある時、某メーカーの経営会議に参加した際、財務と人事制度の重要議案には全く意見が出なかったのに、議題が製品開発に移った途端に議論が白熱したことがあった。後から訊くと、役員の大半が技術畑出身者とのことだった。仕事柄多くの経営者と接するが、経営スキルとマインドをバランスよく備えている人は極めて少ないのが実感だ。


企業経営にはホリスティックな力が求められる。ホリスティックとは「統合された全方位、全人的な」といった意味合いだ。経営に必要な力を分野毎に軸を取ってレーダーチャートにした時、特定の分野だけが尖るのではなく、全ての軸でポイントが高く、線で囲まれる面積が最大になるような力だ。経営の総合格闘技力とも言える。


経営者のレーダーチャートがいびつなのは、個人の生来の資質より、「教育」と「訓練」と「経験」の問題の方が大きいように思う。当然ながら、生まれながらにして経営資質をフルセットで備えている人はいない。一定レベルの「教育」と「訓練」を行いながら「経験」を積むことで、レーダーチャートは均整がとれて大きくなる。


ここで留意すべきは「教育」と「訓練」だ。確かに、人は「経験」によって成長する。「経験」が重要なのは言うまでもない。しかし、人ひとりの「経験」には限りがある。と同時に、「経験」だけに頼っていると未経験なことには上手く対処できない。


「経験」は、運用知としていつでも引き出せるよう、類似性や普遍性を見極めて、概念化した上で蓄積することだ。それによって応用が効く。この概念化に欠かせないのが、これまでの先達の教え(理論や法則、定石など)だ。先達の教えの伝授、すなわち「教育」を通して得た知見によって「経験」が概念化されると、個々の体験だけから得た力より格段に大きな力となる。ここに「教育」の真価がある


さらに努めるべきは「訓練」(=自主トレ)だ。プロ野球の大谷翔平選手も、プロ棋界の藤井聡太棋士も、プロと呼ばれる人たちは皆、実戦経験だけで成長しているわけではない。不断の研鑽(けんさん)とトレーニングを怠らない。会社員は紛れもなくプロの仕事人だが、日々の業務に没頭するあまり、自らに「自主トレ」を課している人は少数派だ。


現在、経営リーダー職にある人は無論のこと、これから目指す人、期待されている人には、少なくとも「経営に必要な7つ道具(基本のスキルセット)」*2は手中にして欲しい。金づちだけしか持っていなければ、やれることは限られる。何よりも、それでは本人も面白くないだろう。


先ずは、積極的に「教育」の機会を得て、プロしての力量を磨くために「自主トレ」の習慣化に努めたい。


(註)
*1: 英文は、"If all you have is a hammer, everything looks like a nail."

*2: 「弘下村塾」が特定する経営力の領域は、本留考録の7つの記事分類(M0M6)に対応。全7モジュールの中に経営実践に必要なスキル145、マインドセット86を含む。本留考録も「自主トレ」習慣化の一助となるよう編纂。