KPI(Key Performance Indicator:主要業績指標)は、Performance(業績)をどう捉えるかによって使い方が異なる。KPIには、売上高営業利益率(ROS)や株主資本純利益率(ROE)など、各企業が重視する「業績指標」を掲げる経営者が多い。しかしKPIはこの種の業績指標ではなく、「業績に結びつく行動指標」とすると利用価値が上がる。
例えば、自動車販売ディーラーの場合、KPIには店舗の販売台数や売上高ではなく、来店客数と試乗件数を取る。販売台数や売上高は営業活動の目標や結果だが、来店客数と試乗件数はこれらに伴う行動指標となる。この数値の推移と要因の分析から、販売台数や売上高を上げる具体的な活動指針や改善策が得られる。
KPIのもう一つの利点は、関係者に単刀直入に届くことだ。来店客数と試乗件数が自店舗のKPIと知れば、新人営業マンも、受付担当者も、サービス・エンジニアも、これらの数字を上げる活動に集中でき、メンバーの行動に整合性が生まれる。メンバーの意識と行動をグループの目標に向かわせる、簡便にして強力なツールとなる。
KPI運用の最大の鍵は、目標とする結果に有効に結びつく指標(変数)を見つけ出すことだ。自動車販売では、来店客がお目当ての車に試乗すると成約確率が上がることが知られているが、効果的なKPIを見つけ出すことはそう簡単ではない。
第二次世界大戦時の日本軍は、戦争に勝つKPIは「戦艦に搭載する大砲の射的距離」と踏んだ。もはや艦対艦合戦の時代ではなかったが、日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊に勝利した体験が、巨大戦艦大和を産んだ。一方、アメリカ軍は、空爆の有効性から「爆撃機の数」をKPIに置いた。結局、大和の主砲は火を噴くことなく、数多もの爆撃機の攻撃に沈むことになる。KPIの選択の違いが、国家の存亡をも左右し得る。
このような経験バイアスの排除を含み、的確なKPIの探索には困難が伴う。人間の社会行動は原因と結果が複雑に絡み合っていることが多いからだ。
かつて多国籍企業に勤めていた頃、米・ロチェスター空港から車で2時間半ほどの田舎町に関連工場があり、定期的に訪問した。ある時、この工場のトップが「注文を受けてから製品が出荷されるまでの時間が短くなるほど、工場の利益は上がる」と言って、36カ月間の相関グラフを見せてくれたことがある。見事なまでの相関関係だった。彼にとっては、受注から出荷までの時間短縮が、工場の利益を上げる「秘策」だったのだ。
経営にとって、計画は立案時の仮説に過ぎない。事業とは、その仮説(=事業計画)を社員総出で立証するプロセスとも言える。絶えず進捗をモニターし、必要に応じて計画を修正しながら進めるものだ。KPIも、先ずは「コレか?!」と思う指数を選び出し、試行錯誤を繰り返して有効な指標を見つけ出すプロセスが大事だ。その過程から独自の運用知も生まれてくる。
もし「人には知られたくない」と思えるKPIを見つけ出せたら、威力は絶大だ。
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