M5 議論が広がらない、深まらない時の「決め台詞」


 

会議中、議論が煮詰まって、考えが広がらない、深まらないこともあるだろう。そんな時、その場のモードを変え、議論を先に進める「決め台詞(ゼリフ)」が5つほどある。上手く使いたい。

(1)「もう一度、事実を整理してみましょう」(振り出しにもどって、事実を確認する)
議論が煮詰まったり、水かけ論になったりするのは、参加者がいきなり持論や解決案をぶつけ合って、その良し悪しを指摘し合っている場合が多い。こんな時は、もう一度「分かっている事実を全て確認し、整理して、論点を明確にする」ことが大事だ。

要は、対策や結論を論じる前に、現状をしっかり分析することだ。初診で一言二言ことばを交わしただけで、医者から処方箋を渡されたら、不審に思うだろう。「処方する前に、診察・診断する」のは、病院でも職場でも同じだ。ただし、この際、事実を整理しているつもりで、自分の私見や思い込みが入り込んでしまうことがあるので、留意したい。

例えば、ある製品の販売不振を議論する際、①「売上が落ちている」、②「営業マンの製品知識が不足している」、③「過去3年間営業マンのトレーニングを行っていない」。これらは事実として挙げられる事柄だが、これをもって④「売上アップのために営業マンの製品トレーニングが必要」というのは、事実のまとめとしては適さず、かつ、対策としても「早とちり」の可能性があるので要注意(末尾に補足する)。

(2)「そもそも、何が目的なんでしたっけ?」(何のための議論かを再確認する)
議論しているうちに、議題が本筋から外れて、どんどん細かいテーマに入り込んでしまうことがある。そんな時、この一言で参加者に本来の目的を再認識させ、議論を本筋に戻すことができる。よくコンサルタントが使う言葉でもある。

(3)「〇〇の立場になったら、どう考えますか?」(視座を移して異なる視点から考える)
〇〇に入るのは、より広い領域の責任者や、グループ外の人などがよい。例えば、課内の議論なら、二段階上の上司(事業部長や社長)の立場、社内の議論なら、顧客や競合相手や株主などの社外の立場に置き換えて考えてみる。

(4)「もし、この条件がなかったら、どうなりますか?」(暗黙の前提条件を外して考える)
議論は時として暗黙の前提(制約)条件に縛られていることがある。いったん、これを外して考えを発散させる。その後、その条件がどこから来るものなのか、外せないものかを議論する。実際に外すことが困難な場合でも、本来求めているものが明確になり、次善の策を考えるヒントになるだろう。

最後に、それでも現状が打開できない場合は、
(5)「今日はここまでとして、後日続きをやりしましょう」(中断して、考えを寝かせる)
同じ話の堂々巡りだったり、本題の周りの藪をたたくような話ばかりで、時間を浪費してしまうこともありがちだ。そんな時はいったん中断する。対立関係にある参加者同士の議論がヒートアップし過ぎた時にも、これが有効だ。15分程のブレイクでも効果はあるが、出来れば日を改めて「考えを寝かせる」。「寝かせる」とは、まさに「一晩寝る」ことを意味する。人間は寝ると、考えが整理され、新たなひらめきを得ることが少なくない

(1)~(5)の発言は、適時、自然に使えるようにしておきたい(そのためには、これらの「決め台詞」を自分流の言葉に直して、声に出して何回か練習しておくことだ)。

多くの産業が成熟期にあり、現状打破には単なる「頑張り」ではなく「知恵」が求められる。職場で「知恵」を生むには、日々の会議を活性化し、議論の質を上げるファシリテーションのちょっとした工夫が役に立つ。


(補足)事実と対策の因果関係
本文中の①、②、③が事実としても、④が結論づけられるとは限らない。売上が落ちている原因は、他にも、市場が縮小している、自社製品の競争力が落ちている、競合会社が安値攻勢でシェアを伸ばしている等々、いくつもの可能性が考えられる。営業マンの製品知識不足と売上降下の因果関係が分からない段階では、④は「早とちり」になりかねない。実際の会議では、このように安直に対策に飛びつくことが起こりがちなので気をつけたい。