M2 事業改革はトップダウンか、ボトムアップか?


 
「これではダメだ」と思っても、自力では会社は変わらない、変えられないと考える社員は多い。そんなことから「改革はトップダウンで行うもの」と思いがちだ。しかし、改革の成否を握るのは往々にして「ボトムアップ力」、すなわち「社員の力」だ。


トップに本当に求められる力も、トップダウン力ではなく「トップアップ力」とも言うべき力である。トップダウン指向が強い外資系企業に長年身を置いた者が、こう言うと奇異に感じるかもしれない。説明したい。

-ボトムの力と本気度が改革を起こす:
事業改革実行の担い手は、事業に直接携わる当事者・社員である。一定数以上の中核社員が改革案を自分のものと考え、これを断行する気概と技量を持たなければ、改革は成し得ない。「上から言われたからやる」程度のヤワな行動力では足りず、社員自身の「内から湧き上がる意志」に突き動かされた実行力が求められる。古来より改革は、現体制に不満を持つ民衆(ボトム)から起きることが多い。

しかし、「ボトムアップの改革は難しい」と考える中間管理職は多い。「権限がない」 これが一番の理由のようだ。手厳しいようだが、このような人はたとえ権限を持つ立場になっても、改革は出来ないだろう。権限がないなら、ある人に働きかければいいだけの話だ。ボトムアップ、トップダウンに限らず、改革には「同じ考えを持つ仲間をつくる力」が欠かせない。職場によっては、上意下達の強い職場文化から、ボトムにはこれがキツイ実情も理解している。それでもボトムからの改革の突破口は、ここ以外にはない。

よって、ボトムに求められるのは、仲間をつくり、上を巻き込む力。すなわち「自らの確たる意志を持ち、人間関係を構築していく力」だ。そのためのコミュニケーションスキルは必須だ。外資系企業のボトムは、相対的にこれに長けている。

-「トップアップ力」が、改革の行く手をクリアにし、組織の実行力を引き上げる:
「トップアップ力」は、私の造語。トップが「下(ダウン)に指示してやらせる」のではなく、「上(アップ)に向かって、同じ目標へと社員を引き上げる」、そんな力を指す。トップが「上に向かう」ためには、①人間社会のより良い未来を構想し、②自社事業の将来像を具体性をもって示し、③その実現に向けて社員の力を結集する必要がある。トップの意識がここに向けば、社員の意識も上に向き、職場は活力に満ちてくる。

世の中には、外資系流の強いトップダウン力で短期間に業績を回復する、いわゆる「カリスマ経営者」と呼ばれる人もいるだろう。しかし、このようなリーダーは希少な上に、このタイプのリーダーが率いる組織は、リーダーが去った後、往々にして迷走する。カリスマ経営者の周りには、自らの信念で主体的に行動する人材が育ちにくいからだ。

「会社が変わらない、変えられない」のは、ボトムが諦めムードに浸り、自らの信念で上を巻き込んで、改革を断行する気概と技量を持ち合わせていないこと。そして、トップが目先の収益に追われて、事業の将来像を描き切れず、下への指示と結果のチェックに終始し、かつ、事業改革と並行して進めるべき人心の掌握、職場の一体感の強化にも目が向かないからだ。

「トップとボトム」、両者のベクトルが共に上(アップ)に向けば、会社は確実に変わる。事業改革は、少数でも志ある勇者が立ちあがり、周囲を巻き込みながら進むものだ。どこの職場でも起こり得る。諦めることなく、果敢に挑んで欲しい。