M4 組織にこだまするグループ長の悲鳴


 

多くの企業の中間管理職の方々と接する中で、最も業務量が多く、厳しい時間を過ごしていると思われるのは、「グループ長」(会社によって、課長やマネージャーなど)と呼ばれる現場第一線の責任者だ。30代後半から40代半ばの人が多い。部門にもよるが、数人から数十人もの部下を持つ。彼らは、まさに「日々飛んでくる球を打ち返しているような毎日」を送っている。

グループ長が多忙なのは、部下の数が多いからだけではない。上司から飛んでくる球も多い。それも直属の上司からだけでない。組織によっては、ライン上の上司の他に、技術や品質などの機能を統括する上席者が置かれていたり、機能別組織の中に製品責任者が置かれたりするケースもある。グループ長は、これらの人たちとのやり取りにも時間を割く。

グループ長は、現場の事情を最もよく知る責任者ゆえに、社内の会議に呼び出されることも多い。上司が自分の上司に報告する際に、同席を求められることさえある。年次事業計画のアクションプランの素案も、現場トラブルの上層部への報告資料の作成もグループ長に依頼がくる。まさに社内全体がグループ長を核に動いている感覚だ。明らかに一人の「管理スパン」を超えている。

リーマンショックの後、業務の効率化とコスト削減を意図して「組織のフラット化」が叫ばれた。しかし実際は、現場に携わるグループ長直下の階層が押しつぶされた一方、グループ長より上は年功序列が温存され、さらに新たな職責が生まれ、煩雑なビル状態となっている。ちょうど、組織が逆T字型になっていて、太いタテ棒長いヨコ棒の結節点で、グループ長が孤軍奮闘している構図だ。

これは(グループ長自身の問題ではなく)明らかに組織設計の不備によるものだ。解決には、
-グループ長の下に「サブグループ長」を設けて、直下の部下の数を減らし、現場組織体制を強化する。
-組織の「レポーティングライン*」をシンプルにし、誰にとっても「上司は一人*」を原則とする。
-各層の管理職の責任と権限を明確にし、厳格に適用すると共に、これらの層のマネジメント力を養う。
どれも組織づくりの基本中の基本だが、どういうわけか、日本の会社(特に大手企業)ではこれが上手くいっていないところが多い。このままでは、モノづくり(生産)現場を含め、日本の職場が根底から崩壊しかねない。

グループ長は、会社に入って初めて就く管理職である。それまでは自分一人で結果を出せばよかったが、ここからは部下の力を集めて結果を出すことが求められる。部下の仕事も自分の職責範囲となる。社会で生きる上で、自らの責任と関心が「私」から「私たち」に変わる大事な転換期でもある。充実したグループ長時代を送ることが、将来の経営リーダーへと大きく羽ばたく第一歩だ。

もちろん、会社によって事情は異なるだろう。経営層には、自社の現場マネジメントの実態を把握し、組織改編の必要性を見極めて欲しい。


註)
*1 「レポーティングライン」
誰が誰の上司かを示す組織図上の線のこと。日本企業の場合、実際の業務でのレポーティングラインが組織図と異なっていたり、より複雑だったりするケースが散見され、意思決定のプロセスと責任の所在が曖昧なことが多い。

*2 「上司は一人が原則」
ピラミッド型組織では、直属の上司は一人が原則。さもないと意思決定のスピードが落ち、判断の根拠が曖昧となり、責任の所在も不明確になる。ピーター・ドラッカー曰く、”Organization has to be transparent. Any one in an organization should have only one master.” (組織は分かりやすいこと。組織の誰にとっても上司は1名であること。)