その会社の組織図を見ると、職場の動きがおおよそ分かる。組織図が正確に描かれていることが大前提だが、どこを見るかと言うと、①収益(PL)責任を持つ部門の自律性と、②レポーティングラインのシンプルさの2つだ。説明したい。
① PL責任を持つ部門の自律性
企業組織は、収益を上げるための役割分担と連携の仕組みゆえ、組織図にはその会社がどのようにしてこれを達成するのかの骨格が現われる。売上を上げ、利益を出すために、どのような役割がいくつに分かれていて、それぞれの部門がどのように連携し、どこ(誰)が指揮、統合して収益責任を果たしているのかを診る。
この時、収益責任を取る部門(職責)の傘下に収益を上げるために必要な部門が全て入っているかをチェックする。収益を上げるプロセスがPL責任を果たす部門の管轄内で完結していなければ、他部門との調整が必要となり、職場の動きにブレーキがかかる。
ところが実際は、営業部門が独立して本部となっていたり、アフターサービス部門が子会社(別法人)となっていたりして、PL責任者の傘下に入っていない企業が多く存在する。何らかの事情(メリット)からそのような組織とする場合は、傘下に入らない部門が事業収益の最大化に能動的に寄与できるよう、業務上のルールやインセンティブ制度などの仕組み(システム)を合わせて導入する必要がある。
② レポーティングラインのシンプルさ
レポーティングラインとは、聞きなれない言葉かもしれないが、組織図上の部門を示すボックス(箱)の間を結ぶ線のこと。当然ながら、レポーティングラインが複雑なほど、部門間で応分の意思疎通が必要となる。これには手間を要すると同時に、意思疎通上のミスの可能性も伴い、事業効率の低下に直結する。
組織の一員として効率的、効果的に行動するには、組織上の自分の位置づけを正しく理解する必要がある。特に「誰が自分の上司か(どの職責にレポートするのか)?」は大事な要素だ。通常、上司となるボックスにつながるレポーティングラインは1本だが、職場のリアルでは、承認を得るのに直属上司だけでなく複数の関係者からの同意を得なくてはならないケースもあるだろう。
日本企業の組織はこの点が不明瞭で、組織図に描かれたレポーティングラインと職場での行動実態が乖離していることが少なくない。一人が複数の役割を兼任している場合なども、組織図に正確に表すと共に、それぞれの業務に割く時間配分を考慮して人事考課に正しく反映する必要がある。
かつてスイスの重電プラントメーカーABBが採用して有名になったマトリックス組織は、全社の業務を製品群でグループ化した3部門と地域でグループ化した3部門をタテヨコに重ね、製品と地域(市場)の両面から事業を指揮・運営するものだった。
当時、業界ではこれがグローバル企業に適した組織モデルと絶賛されていたが、実際にABBに在籍してみると、一つひとつの懸案事項に製品責任者と地域責任者の両方の承認が必要となり(かつ、両者が意を異にするケースも少なくなく)、職場では効果のメリットよりも非効率のデメリットの方が勝っていることを体感した。今では(ABBを含め)多くのグローバル企業が、製品を軸に全世界を束ねるレポーティングラインを採用するようになっている。
マネジメントの父とも称されるピーター・ドラッカー(Peter F. Drucker)*は、
Organization has to be transparent. Any one in an organization should have only
one “master”.
ー「組織は明白な(平明で分かりやすい)こと。組織の中の何人(なんびと)も持つべき”主人”は一人であること」と述べている。
事業運営においては、「組織はシンプル、上司は一人」が基本と心得たい。
* ピーター・F・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker : 1909 - 2005)オーストリア生まれの経営学者。現代経営学(マネジメント)の生みの親と称される。著書に『現代の経営(上・下)』(ダイヤモンド社、1965)等、多数。
コメント
コメントを投稿