M1 現状打開に必要なのは「観察力」

 


世の中の変化が激しい一方で、自分自身や職場は、なかなか現状を打開できない。そう感じる人は少なくない。いくら計画を練ってPDCAPlan / Do / Check / Act)を回しても、どこか空回りで、新たな光は見えてこない。これが繰り返されると、計画を立てる気力さえも萎えてくる。

これを打破するには、「観察力」を研ぎ澄ますことだ。ここで言う「観察力」とは、観る、聴く、触れる、感じるなど、身体に備わったセンサー全てをフル稼働させ、対象を感知・把握する力のことだ。

我々は、日々多くのモノや人と接触し、さまざまな出来事に遭遇する中で、考え、行動している。しかし、ともすると、外部からのこれらの刺激の受け止め方は、表層的だったり、先入観に囚われたり、さらには全くの無自覚だったりで、必ずしも常に感度が高いとは言えない。外部との関わり合いを受け止める時点で、捉え方が不十分だったり、不正確だったりすれば、いくらPDCAを回しても望む結果は得られないだろう。

アメリカ空軍にOODA(ウーダ)という行動指針がある。OODAとは、Observe(観察する)、Orient(方向づける)、Decide(決定する)、Act(行動する)の4つの頭文字を取ったもの。戦闘機の空中戦での洞察から得られた行動ガイドだが、留意すべきは、始めのO「観察する」だ。撃墜するか・されるかの緊迫状態の中で、先ず行うべきは「しっかり観察しろ!」とのインストラクションだ。

これは、PDCAP(計画)段階での現状分析、さらにはその前段階の「察知・探索」の重要性を強調するものだ。OODAの肝は、初回の「観察」の後、ODを経て、行動(A)し、その結果を再度「観察」し、次のOODAへと展開することだ。移動標的には、このループを連続して機敏に回すことが欠かせない。

ビジネスでも「観察力」が現状打開のカギを握ると唱えるのは、オットー・シャーマー氏だ。彼が提唱する「U理論*1」も「初動で大事なのは、センシング(感知・観察する)に徹すること」と説く。対象となる事物を、予見を排して、ひたすら「感知・観察する」ことで、これまでは気づかなかった様相が浮かび上がる。それを心の底に深く沈み込ませる(沈思熟考する)と、過去の執着から解き放たれた、新たなヒラメキが誘発されるとのことだ。

さらに、人間関係も現状打開には「観察」が欠かせないと説く人がいる。宇田川元一氏。著書「他者と働く*2」の中で、意見が対立する相手には「自分の考えをいったん横に置いて、相手の言動をじっくり観察し、相手の考えの枠組みを探る」必要性を伝える。そのうえで、相手の立場から自分を見たら、どう見えるかを推しはかる。そこから、相手のどこを捉えれば、自分との間に橋が架かるかの手がかりを探る。

我々の日常は、大半がルーチン化していて、物事を深く考えずとも大過なく過ぎていく。いたずらにこれに身を任せていると、日々出会う人やモノ、出来事への「観察力」が鈍くなる。当然、現状打開力も磨かれないNHKの人気番組(「チコちゃんに叱られる」)のチコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と喝を入れられる前に、自らの「観察力」の感度をもう一段高めたい。


註)
*1 U理論 C・オットー・シャーマー著 中土井瞭 由佐美加子訳 英治出版
  Theory U - Leading from the future as it emerges    C. Otto Scharmer

*2 他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論 宇田川元一著 ニュースピックス