M2 VUCAの時代、リスクにどう対処するか?


 
VUCA(ブーカ)とは、脆弱性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の英語の頭文字を取ったものだ。混迷する昨今の世情を表す言葉として使われる。4つセットで語られることが多いが、事業経営においては、このうちの1つに特段の留意が必要だ。

その1つとは「不確実性(Uncertainty)」である。脆弱性も、複雑性も、曖昧性も、それが明らかな場合は、経営の対処は可能だ。しかし、不確かなことへの対処は難しい。弓矢でも、銃弾でも、移動する標的(Moving Target)、それも予測不可能な動きをする的を射るのは至難のワザだ。

そもそも事業経営とは、不確かな将来の中を進む営みである。平時であっても「不確実性への対処」には細心の注意を払いたい。平時の事業経営でも直面する不確実性への感度が鈍いと、意図せずに自らこれを高めてしまいかねない。

実際、職場では、
‐ プロジェクトの応札時のコスト見積もりに、外部購入品の仕入れ値など、多くの不確定項目が含まれる
- 利益計画に、希望だけの大幅なコストダウン効果を見込む
‐ 多発するクレーム対応によるコスト増に、真の原因究明を徹底せず、固定費(人員)削減で帳尻を合わせる
‐ 為替はプラスに働くことを考慮して、変動リスクを放置する
- 新製品の市場投入時期を、市場や競合環境とは無関係に、社内事情で延期する・・
のようなのことが起こりがちだ。


かつて私が身を置いた外資系企業では、外部購入品は全てに確定見積書がついていなければ、プロジェクトの応札見積は承認されなかった。また、為替は予約のコストを見積に計上して、受注時に固定するのが基本ルールだった。

リスク管理があまい職場では、予算と実績の照合(予実管理)サイクルも長くなりがちだ。期中での予算未達状態に機敏に手を打たなければ、時間とともに不確実性を大きくしてしまう。中には、期末までの現場レベルでの挽回に期待して、期中での予算未達状態を大ゴトとは捉えない風土さえ散見される。


「毎月の業績に、どうしてあんなに鈍感でいられるのだろう?」とは、 日本企業に対して外資系経営者から度々聞く言葉だ。時間に追い詰められると、リスクに対する打ち手が限られてくる。リスクには機敏に対応するのが鉄則だ。


そうは言っても、敢えてリスクを取ってでも突き進む事業局面もあるだろう。その際は「たとえ損失が発生しても、致命的にならない範囲に留める」ことが肝要だ。許容できる最悪のシナリオを設定し、そこまでは肚をくくる。また、損失がその一線を超えてさらに拡大するリスクがあるなら、その時点で「損切り」し、損失額を確定することも大事だ。

不確定要素をそのままにしておけば、経営者を含め、関係者が以後の損失対策に費やす時間や不安定な心情も軽視できない損失となる。行く先が不透明なのは、いつの時代も同じだ。VUCAという言葉にいたずらに惑わされることなく、リスクに備え、リスクに立ち向かう事業経営の基本に徹したい。

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