VUCA(ブーカ)とは、脆弱性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の英語の頭文字を取ったもの。混迷する世情を表す言葉として、最近使われることが多い。4つセットになっているが、事業経営上はこのうちの1つが他の3つとは性質を異にし、特に注意を要する。
その1つとは「不確実性(Uncertainty)」である。それ以外の脆弱性、複雑性、曖昧性は、そうと分かればそれなりに経営対応は可能だ。しかし、不確かなことには対応自体が難しい。弓でも、銃でも、予測不能な動きをする移動標的(Moving Target)を射るのは至難のワザだ。
そこで重要となるのは、平時から「不確実な要素を極力排除する」ことだ。事業経営は将来到達すべき目標を掲げて進む営みであり、将来とは(厳密にはすべからく)不確かなものである。VUCAと呼ばれる時代でなくとも、平時の事業経営でも直面する不確実性への感度が鈍いと、意図せずにリスクを高めてしまいかねない。
しかしながら、実際の経営現場では、
・ プロジェクトの応札時のコスト見積もりに、外部調達品の仕入れ値など、多くの不確定項目が含まれる
・ 新製品や新規プロジェクトの利益計画に、未確定(=希望だけ)のコストダウン効果を見込む
・ 事業収益悪化の改善策として、確たる原因究明を行わず、固定費(人員)削減で帳尻を合わせる
・ 為替はプラスに働く可能性を考慮(=根拠なく期待)して、下振れの変動リスクを放置する
・ 新製品の市場投入時期を、市場や競合環境の実態にかかわらず、社内事情で延期する
などのことが起こりがちだ。
一般に、日本企業は不確実性にともなう経営リスクへの感度が低いように感じる。私がかつて身を置いた外資系企業では、外部購入品は全てに確定見積書がついていなければ、プロジェクトの応札は承認しないルールになっていた。また、為替は予約コストを見積に計上して、受注時に固定するのが基本だった。
日本企業の月次経営会議に同席した外国人幹部から、「毎月の業績に、どうして皆あんなに鈍感でいられるのだろう?」と言われたことがある。リスク管理が甘い職場では、予算と実績の照合(予実管理)サイクルも長くなりがちだ。
私が知る日本の大手企業の中には、期末までに時間があると現場レベルでの「ガンバリ」(挽回)に期待して、期の前半での予算未達状態を深刻に捉えない会社さえもある(そもそも予算の立て方自体にも問題があるのだが)。しかし、予算未達状態を放置すれば、時間とともに追い詰められ対応策も限られてくる。本来は、期初にこそ早めの対策を打つことが定石である。
それでも、さまざまな経営局面で敢えてリスクを取って進むこともあるだろう。その際は「たとえ損失が出ても、致命的にならない範囲に収める」ことが鉄則だ。許容できる最悪のシナリオを設定し、そこまでは肚をくくる。その上で、経過を看て損失が予め決めた一線を超えるようなら、その時点で「損切り」し損失額を固定する勇断も大事だ。不確定要素をそのままにしておくと、経営者を含め、関係者がその後の対策に費やす時間や不安定な心理状態も負担となる。
コメント
コメントを投稿