M3 会計基礎コース101:「左右がバランスするから、バランスシートと呼ぶ」のではナイ!



なぜ、こんな誤解が広くまかり通っているのか不思議だが、「BS(バランスシート・貸借対照表)は、右(貸方)と左(借方)がバランスしているから、バランスシートと呼ぶ」と理解している人が圧倒的に多い。会計を教える人たちの中にさえ、このように誤解している人が多数いるように思う。

BSのバランス(Balance)とは、英語の「残高*」という意味で、カタカナ英語で日本語となっているバランス「均衡」という意味ではない。

「左右がバランスするから、バランスシート」という誤解が、本来もっと単純に解釈すべきバランスシートを難しくしているように思う。加えて、日本語の「貸借対照表」という名称も理解の妨げになっているように感じる。BSの各項目から「貸す」、「借りる」とは、いったい誰が、誰に、貸したり、借りたりするのかのイメージがわき難いのではなかろうか。

基本にもどって、BSの右側は「事業に必要な資金の入手先」を、左側は「入手した資金の使途(何に使ったか)」を表したものだ。よって、左右それぞれの合計が同額となるのは自明であり、日本語の「バランス」(均衡)のイメージとはかけ離れている。

BSの右側(=資金の入手先)は、「自分のお金」か「他人から借りたお金」かの2つに大別する。会計では自分(株主)のお金を「資本」(英語でEquity)、他人から借りたお金を「負債」(Liability)と呼ぶ。

さらに、「負債」は1年以内に返済するお金(流動負債)と、1年以上借りていられるお金(固定負債、あるいは非流動負債と呼ぶ)とに区分する。1年で分けるのは、業績を計る期間(事業年度)が1年単位だからだ。以上から、BSの右側(=資金の入手先)は、手元に長く置いておけるお金の順に(下から)「資本」、「固定負債」、「流動負債」を記す。


BSの左側(=資金の使途)は、現時点でどんな「資産」(Asset)を持っているかを表している。これは、現金と1年以内に現金化できる資産(流動資産)と、1年以内に現金化できるとは限らない資産(固定資産、あるいは非流動資産)の2つに区分して記す。

財務上、早く現金化できる資産の方が運用の自由度が増すので、1年の事業年度内に換金できる資産がどれだけあるかを示すためこの区分で表す。以上から、BSの左側は、換金しやすい順に(上から)「流動資産、(内、一番上が現金)」、「固定資産」を記す。


すなわち、BS
は、「右側(資金入手先)は、少しでも長く手元に置いておけるお金(資本>固定負債>流動負債)が多いほど、財務の安定性が高く」、「左側(保有資産)は、少しでも早く現金化できる資産(現金>現金以外の流動資産>固定資産)が多いほど、財務の柔軟性に富む」という基本概念をベースに構成されている。

よって、BSを最も簡単にチェックするなら、右最下段の「資本」の大きさ(総資本に対する比率=「財務の安定性」)と、左最上段の「現金」の量(=「財務の自由度」)をみることだ。


BS
は決して難しい表ではないが、これに精通している経営リーダーは意外に少ない。大手企業の事業部長クラスでも、事業損益には責任は持っていても、財務と資産管理は自分の管轄下にない場合が多いからかとも思われるが、もっと単純な「バランス」に代表される基本事項の誤認が、BSの理解の妨げになっているようにも思う。


註)*balance (n.) : an amount that remains or is left over(ロングマン現代英英辞典): 残存する、または、残された量・額 My bank balance isn’t very large:私の銀行(預金)残高は多くない。

補)アメリカの独立戦争の発端となった出来事に「ボストン茶会事件」(1773年)という騒動がある。イギリスによる紅茶の重税に激怒したボストン市民が大挙して貨物船から茶箱をボストン港に投げ捨てた事件で、英語名では「The Tea Party Ship」事件として知られる。

日本語名はこの和訳だが、ここでの Party は、日本語となっているパーティ(宴会)ではなく、「一団」とか「加担者」といった意味合いだ。決して「お茶会」が開かれたわけではない。BSの「バランス」を含め、英語の誤訳から日本で誤解を招いている例は他にもあるように危惧する。