M6 「自分らしさ」を探索する方法

 


「~らしく」には、通常、周囲からの期待や社会通念が含まれている。「お兄ちゃんらしく」、「大学の学生らしく」、「〇〇業界人らしく」、「お年寄らしく」・・いくつもの「~らしく」が幼い頃から今日まで、暗黙のうちにも我々の行動基準のように示される。

だが、これらは周囲からの期待や要望であって、本当の自分、または、自分が本当に望む自分とは限らない。我々が本来追い求めるべきは「自分らしく」だ。

そうは言っても、自分らしくを探求するのはそう容易ではない。そもそも何が自分らしいのか、自分でもよく分からないことさえある。さらに自分らしさは、人生の経験とともに変貌するようにも思える。

自らを冷静に見つめ、自分らしさを探る端的な方法は3つほどある。A. 思考ツール(マンダラートやマインドマップなど)を使って自分の行動や気持ちを客観視する、B. 他者との関係性を注意深く観察し、周囲のリアクションから自分の行為を振り返る、C. これまでの経験や学びを書き出して、自分が大事にしている信条や心の支えに思いを馳せる、ことだ。それぞれの方法について記したい。

A.「自分の行動や気持ちを客観視する」には、例えば「マンダラート」と呼ばれる思考ツールが助けになる。「マンダラート」とは、3X3のマトリックスで出来た9マスからなるフレームワークだ。中央のマスにテーマを書き、まわりの8つのマスにテーマに対する考えを書く。大リーグで活躍する大谷翔平選手が高校時代に利用していたことでも、最近話題になった。

これを使って、「子ども時には、何に夢中になったか?」や、「今日一日どんなことがあれば幸せか?」、「死ぬまでにどうしてもしたいことは何か?」など、自分自身の探索を促すテーマを上げ(9マスの真ん中に書き)、それに8つ答えてみる。8つ答えることが難しいこともあるだろうが、その試みが普段あまり意識しない自分を浮かび上がらせる。

B. 日々の生活での「他者との関係性から自分自身を内省する」ことも、自分らしさを知るヒントになる。これには「ジョハリの窓」と呼ばれる心理モデルが助けになる。「ジョハリの窓」は、横軸に「自分」を、縦軸に「他者」をとり、それぞれを自分について「知っている」と「知らない」の2つに分けて、2X2のマトリックスをつくる。

こうすると、自分自身が、①自分も他者も知っている自分(開放の窓)、②自分は知っているが、他者は知らない自分(秘密の窓)、③自分は知らないが、他者は知っている自分(盲点の窓)、④自分も他者も知らない自分(未開の窓)の4つの窓(セクション)に分かれる。

「開放の窓」が大きいと、リーダーシップを発揮しやすいと言われる。他方、「秘密の窓」が大きい場合は自らの「他者関係力」を、「盲点の窓」が大きい場合は「自己客観視力」を問うてみる必要がある。人は自分では自分がよく見えず、他者との関係性から自己を知ることが多い。「ジョハリの窓」を使って自らを見つめる価値は高い。

C. さらに、「これまでの経験から得た学びを反芻してみる」ことも有用だ。人生には喜怒哀楽がつきものだが、人はそこから経験的な学びを得ている。人生経験は人それぞれに固有なものゆえ、そこから得た学びも固有の価値となる。先ずは、自分が大切に思う経験や学びを紙に書き出してみることだ。精神的支えとなっている経験智や無意識の内にも大事にしている信条が見えてくるだろう。

社会生活で思うように振舞えなかった時、何かの出来事に腹が立ったり悩んだりした時、私はこのようなことをするよう心がけている。人生の暦をめくるほどに意義ある経験を重ねるには、周囲からの「~らしく」に惑わされることなく、また、独りよがりになることなく「自分らしさ」を探求することだ。そのためには、自らを冷静に捉える術(すべ)が欠かせない。