「~らしく」には、通常、周囲からの期待や社会通念が含まれている。「子供らしく」、「学生らしく」、「社会人らしく」、「〇〇会社の社員らしく」、「日本人らしく」・・いくつもの「~らしく」が、幼い頃から今日まで、暗黙のうちにも我々の行動ガイドのように示される。だが、これらは周囲からの要望であって、本当の自分(または、自分が望む姿)とは限らない。我々が無意識のうちにも追い求めているのは、「自分らしさ」ではなかろうか。
しかし「自分らしさ」を追求するのはそう容易ではない。そもそも何が「自分らしい」のか、自分でもよく分からないことさえある。さらに「自分らしさ」は、人生の経験とともに変化するもののようにも思える。
ともあれ、①自分の行動や気持ちを客観視したり、②他者との関係性に目を向けたり、③これまでの経験や学びを反芻したりすることが、「自分らしさ」を探るきっかけになるだろう。それぞれの方法について記したい。
「自分の行動や気持ちを客観視する」には、「マンダラート」と呼ばれる思考ツールが助けになる。「マンダラート」とは、3X3のマトリックスで出来た9マスからなるフレームワークだ。中央のマスにテーマを書き、まわりの8つのマスにテーマに対する考えを書く。大リーグで活躍する大谷翔平選手が高校時代に利用していたことでも、最近話題になった。
これを使って、「子ども時には、何に夢中になったか?」や、「今日一日どんなことがあれば幸せか?」、「死ぬまでにどうしてもしたいことは何か?」など、自分の内省を促すテーマを上げ、それに8つ答えてみる。場合によっては8つ答えることが難しいこともあるだろうが、その試みが普段あまり意識しない自分を浮かび上がらせる。
日々の生活での「他者との関係性から自分自身を内省する」ことも、「自分らしさ」を知るヒントになる。これには「ジョハリの窓」と呼ばれる心理学モデルが助けになる。「ジョハリの窓」は、横軸に「自分」を、縦軸に「他者」をとり、それぞれを自分について「知っている」と「知らない」の2つに分けて、2X2のマトリックスをつくる。
こうすると、自分自身が、①自分も他者も知っている自分(開放の窓)、②自分は知っているが、他者は知らない自分(秘密の窓)、③自分は知らないが、他者は知っている自分(盲点の窓)、④自分も他者も知らない自分(未開の窓)の4つの窓(セクション)に分かれる。
「開放の窓」が大きい人は、他者を率いる力(リーダーシップ)を発揮しやすいと言われる。他方、「秘密の窓」が大きい場合は、自らの「他者関係力」を、「盲点の窓」が大きい場合は、「自己客観視力」を問うてみる必要がある。人は他者との関係の中で自己を確認する。他者に対する自分のスタンスをレビューすることが、「自分らしさ」を見つめるきっかけになるものと思う。
さらに、「これまでの人生での学びを反芻してみる」ことにも価値がある。人生には喜怒哀楽がつきものだが、人はそれらの中から経験的な学びを得ている。人生経験は人それぞれに固有なものゆえ、そこから得た学びを振り返り今の自分に活かすことは、「自分らしさ」を確認し、さらにそれに磨きをかけることになるだろう。先ずは、自分が大切に思う人生経験や学びを紙に書き出してみるといい。
人生の暦をめくるほどに実り豊かな時間を過ごすには、他者からの「~らしく」の押しつけに惑わされることなく、また、独りよがりになることなく、「自分らしさ」を大切にすることが鍵に思える。そのためにも、自らを冷静に見つめられる力を身につけたい。