M1 思考術の基本は「幕の内弁当」と「マトリョーシカ」(1)



 「弘下村塾」では、経営で用いる思考法の基礎についても学ぶ。本来なら高校生くらいで身につけたい基本スキルとも言えるが、残念ながら、日本の学校教育では思考法を学ぶ機会が少ない。塾では、思考術の壱の型は「幕の内弁当」、弐の型は「マトリョーシカ」を合言葉にしている。説明したい。

思考を進めるには「考えを整理する枠組み」を持つ。文章でも話ことばでも、そのまま受け取るだけではインプット情報以上の価値は生まれず、自分の考えも整理されない。論理思考の壱の型は、頭の中に情報を整理する枠組み、すなわち、何らかの「仕切り」を持つことだ。

「幕の内弁当」をイメージするといい。インプットされた食材(情報)を内容によって、ここはご飯、ここは主菜、ここは副菜というように区分けする。この区分けがないと、白米と鮭の切り身とスパゲッティーが一緒にゴチャゴチャに入っているようなもので、何を食べているのか分かり難く、味わって食べる(=情報を吟味する)ことさえ難しい。思考も同じだ。

経営思考に良く使う仕切り(枠組み)には、「PESTPolitics・政治、Economy・経済、Society・社会、Technology・技術」や「3CCustomer・顧客、Competitor・競合、Company・自社」、「外部環境のプラス・マイナス要因・自社の強みのプラス・マイナス要因」、「課題・あるべき姿・解決策」などがある。

テーマに応じてこれらの枠組みによって情報を整理する。雑多に捉えるだけでは得られなかった理解や考えが得られるだろう。先ずは最低でも上述の枠組みは使い慣れておきたいところだが、より重要なことは、テーマに応じて整理する枠組みを自分で考えることだ。これが論理的思考法の最初ステップとなる。

ここで2つのことに留意したい。1つは、分ける数は3つ前後とすること。人間の脳は数多くのことを並列に処理できない。3つ前後の区分だと納得感が得やすく、スッキリまとまる。もう1つは、出来る限り「モレなく、ダブリなく」分けることだ。特に、分けた内容に「ダブリ」がないことには注意したい。「モレ」は漏れた部分を補足することで改訂できるが、いったん「ダブって」分けた内容を仕切り直すのには苦労する。

分け方の具体例を示したい。「医療ミスによる死亡者数を減少させる」というテーマを考える。原因を特定するのに情報を無作為に集めても、意味のある解決案に結びつくとは限らない。最初に何らかの枠組み(仕切り)を持つ。

例えば、医療行為者を仕切りに取って、「医師によるミスの減少、看護師によるミスの減少、その他の医療従事者によるミスの減少」のように考えてみる。他にも、ミスの発生原因や場所などから、「手術によるミス、投薬によるミス、その他の医療行為によるミス」、「内科でのミス、外科でのミス、その他の診療科でのミス」、「大病院でのミス、クリニックでのミス、在宅医療でのミス」、さらには「大都市でのミス、地方都市でのミス、過疎地でのミス」などの分け方が考えられる。

いずれも、3つの区分けと「モレなく、ダブリなく」を意識している。これによって思考が始動し、さらに関連する情報を吟味する(=思考を進める)動機を得る。

どの枠組みで整理すると本質に迫れるかは、発端となった問題認識や収集した情報によって個別に判断することになる。それにはある程度の訓練が必要だが、思考の枠組みを持つことが、考えを推し進める上で有効な手段となることは理解できると思う。「思考術の壱の型は、幕の内弁当」とは、これを意味する。

思考術のもう1つの型は「マトリョーシカの大きさを見極める」だが、紙面の都合上、次回の留考録に譲る。