会社人生にはいくつかの不連続な変化がある。転勤や他部門への転籍などもそのうちだが、最初に経験する最も大きな変化は「部下をもつ」ことだろう。それまでは自分自身の仕事に集中すれば良かったが、これを機に自分以外の人の行動とその結果にも責任をもつ。これは容易なことではない。
事前の経験と学びにもよるが、上司になる時点で「部下を持つ」スキルとマインドを十分に備えている人は少ない。その後の実務を通して上司力を身につけていくことになるが、「個人プレイ」から「集団リード」への移行はギャップが大きく、これに苦労する人も多い。さらに、課長やグループ長を経験した後、もう一段上の職責に就いて現場実務からさらに離れると、自分が何をすべきか戸惑う部長クラスも出てくる。
個人毎に背景も事情も違うだろうが、共通する要因に「上司の役割を明確に自覚できていない」(=言語化できていない)ことがあるように思う。いたってシンプルなことだが、「上司としてのあなたの役割は何ですか?」と問われて、即答できないのだ。逆に、それが出来ていれば、日々の経験をそれに照らして振り返り、上司力を運用知として積み上げることができる。
個々の上司の仕事は職場によって異なるだろうが、その役割には普遍的な原則がある。私はこれを、①「グループの行く先を定める」、②「メンバーの力を最大限に発揮する」、③「メンバーと共に目的地にたどり着く」の3つとしている。
「行き先を定める」とは、グループの目標を定め、メンバーと共有し、組織のベクトルを合わせることだ。単に売上高や利益などの業績目標(What)だけでなく、グループが達成すべき使命や目的(Why)を共有することが大事だ。的確な目標を定めるには、事業分析や計画立案などの経営実務スキルも欠かせない。
「メンバーの力を最大限に発揮する」は、メンバーひとり一人が、持てる力をフルに発揮し、常に成長している状態を意味する。メンバーが内発的動機(意志、やる気)を高められるよう職場環境を整え、適切な教育を施す。これには、自らもメンバーの成長をサポートできる力量を養う必要がある。
「メンバーと共に目的地にたどり着く」ためには、計画したことを最後までやり抜く気概と力量が求められる。事業運営は障害と共にあり、計画通り進まないことも多々ある。障害は外部からだけでなく、内部から発生する。これに屈することなく、メンバーを束ね、適宜計画を見直して、結果が出るまでやり抜くことだ。
職場で経験する課題や学びをこれら3つの役割と必要な力に照らして整理しておくと、一つ一つの経験が概念化され、実践力へと転換しやすい。これは職責が上がって部長や事業部長になっても、さらには社長になっても有効だ。少なくとも、私の場合はそうだった(「弘下村塾」の経営力の方程式、経営力=「課題を特定する力」X「解を示す力」X「人を率いてやり切る力」は上記3つの力と整合している)。
次世代経営リーダーには、社内外から降りかかる障害や課題を乗り越え、自らが信じる目的地を定め、メンバーと共に大きく羽ばたいて欲しい。これからも全力で応援したい。
コメント
コメントを投稿