M3 「入るを早めて、出るを制す」CCCのインパクト



企業の業績結果では売上や利益が気になるところだが、着目すべきはキャッシュ(現金)フローだ。損益計算書(PL)の利益の算出には、売掛金や買掛金、減価償却などのキャッシュの動きを伴わない勘定が含まれる。決算書上の利益は、その年度に実際に手に入った(=使える)現金とは異なることに注意したい。

「勘定合って、銭足らず」とはこのことで、ヘタをすると黒字倒産も起こり得る。通常は(ましてや大手企業では)倒産に至るほどのキャッシュ不足は起こりにくいので、これは頭では分かっても、ピンとこないかもしれない。しかし、キャッシュフローの重要性は平時の事業活動でも同じだ。むしろ大企業ほどインパクトは大きい。

特にメーカーの場合、PLには表れない勘定科目での営業キャッシュの流出がかなりの量になる。「在庫」によるものだ。製品の原材料や部品を仕入れればキャッシュが出ていくが、この費用が回収されるのは製品販売後だ。その間、仕入額に相当するキャッシュが、材料や仕掛品、出荷待ちの完成品などの「在庫」に姿を変えて社内に滞留する。

業界や個々の企業の状況にもよるが、この額は年間売上高の 10~20%になり得る。仮に15%として、売上高500億円の会社なら75億円相当だ。これを2割削減して12%までに圧縮すると、15億円のキャッシュが捻出される。同額のキャッシュを純利益で稼ぎ出すには(売上高純利益率 5%の前提で300億円の受注に匹敵する。売上高500憶円の会社にとっては甚大なインパクトだ。

在庫圧縮には多くの会社が注力していることと思う。ただし、製造リードタイムの短縮や不良在庫の削減など、工場内での活動に終始している場合が多い。抜本的な改善効果は、これらに加えて、営業受注情報の共有、調達コストや納期を考慮した設計、アフターサービス部品の顧客保有など、全社を巻き込んだ取組みから得られる。半導体やレアメタルの供給不足が大きな問題となっている現状では、このような活動が特に重要となる。

資金効率をさらに上げてキャッシュを捻出するには、在庫の滞留期間だけでなく、仕入先に代金を支払ってから顧客先から売上代金を回収するまでの期間を極力短くすることだ。この期間をキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle : CCC*)と呼ぶ。

CCCは「入るを早めて、出(いず)るを制す」。すなわち、売掛金の回収を早め、在庫を削減し、買掛金の支払に適切な猶予をもつことだ。儒教経典の一つ、礼記(らいき)に、国を治むるは「入るを量りて、出るを為す」(年貢などの歳入の量を知った上で、歳出を決定せよ)とある。企業経営は「入るを ”早める”」分、さらに能動的な営みだ。

事業の発展には継続的な投資が要る。そのためのキャッシュは、第一には売上を上げて稼ぎ出すことだが、同時にCCCを短縮して常に資金効率を上げる努力が欠かせない。自社事業に大きなインパクトを及ぼすこの取り組みも、経営トップの意識とリーダーシップにかかっている。



(補)*CCCの計算式は、
CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 - 仕入債務支払回転日数
式中、
・売上債権回転日数は、期末売上債権を1日当たりの平均売上高で割った値
・棚卸資産回転日数は、期末棚卸資産を1日当たりの平均売上原価で割った値
・仕入債務支払回転数は、期末仕入債務を1日当たりの平均売上原価で割った値
一度、自社のCCCを算出し改善の余地を診て頂きたい。