M0 自社にとって競合の存在とは?


企業経営で 3C と言えば、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合会社)の3つを指すことが多い。3つの C は、いずれも事業には欠かせないメインプレイヤーだ。

1980年代以降、アメリカ流経営戦略論が日本に広まって以来、経営は Competitor(競合)の を中心に語られることが多かった。「競争優位性」や「競合との差別化」がキーワードとなり、経営者もライバル企業との差を強く意識するようになった。「業界横並び」意識が強かった日本の経営にとっては、新鮮な刺激となった。しかし、企業経営の本質はあくまで Customer(顧客)の にあることを忘れてはならないと、私は心している。

事業活動の意義は、社会に価値を提供することにある。いくら「戦略」という言葉が使われても、事業が目指すべきは(戦争とは異なり)競合相手を打ち負かすことではない。顧客の心を射止めること、ここがゴールだ。

これに関連して思い出すことがある。日本の大手企業トップとの戦略ミーティングでのひとコマだ。当時勤めていた外資系(仏)企業と同業の日本の大手企業との間で、合併等の可能性を含めた大がかりな戦略的タイアップを模索したことがあった。日仏双方のトップが隠密裏に会い、極秘のプロジェクトチームで案を取りまとめるべく何度も打合せを行った。

何回目かの打合せで、2社がタイアップ後世界市場で競うことになるもう1社との業容を比較し、「競争優位性」を検討した。相手は当時世界を席巻する共通の競合会社だったことから、ディスカッションには熱が入り、2社がどう相乗効果を生み新たな価値を出すのか、長時間議論した。ここでタイアップの具体的なメリットを確認し、次のステップに進む大事な局面だった。

その際だった。ディスカッションに気を良くした日本企業側のトップが、この共通の競合会社に対する仏企業(と自社)を称して、"An enemys enemy is a friend."(敵の敵は味方だ)と口走った。軽口のつもりだったのかも知れないが、その場の状況から私にはこの発言はいかにも軽忽に思えた。前向きな張りつめた空間に  "Enemy”(敵)という言葉が舞い、仏側のトップは一瞬戸惑った様子だったが、"Sometimes."(時にはね)と応じて、その場を流した。

ほんの一瞬のやり取りだったが、この時「このタイアップは上手く行かないのでは?」との小さな懸念が、私の中に生まれた。企業の合併やアライアンスの目的も、単に共通の競合相手に勝ることより、社会(顧客)により良い価値を提供することにある。決してきれい事ではなく、そこに意識を集中するからこそ、競合との優位性も生まれる。「顧客フォーカス」すなわち、社会価値の創出は、経営者が意思決定の際に軸とすべき大事な心の置き所だ。

その後の経緯は割愛するが、この成立すれば日経新聞一面トップに大きく報じられたであろうタイアップ話は、結局、半年余りのプロジェクト活動の末に破談となり、2社はまた元の "Enemy" 同士にもどった。

去る(2022年)8月24日に亡くなった京セラの創業者 稲盛和夫さんは、「企業経営に私心はないか?」を強く自省する人だった。彼が戒める「私心」には、「競争に勝ちたい、会社を大きくしたい野心」が含まれる。彼が説く企業経営者の心の置き所は「利他の心」であり、その追求の結果として、競合相手には真似できない顧客価値を生み、会社も発展するとの教えだ。

自社にとっての競合他社は、敵でも、討ち負かすべき相手でもない。社会により良い価値を届けるライバルであり、同じ社会使命をもって切磋琢磨する同朋とも言える。稲盛流の「利他の心」には遠く及ばないまでも、Customer(顧客)の C にフォーカスした経営に徹することを誓い、稲盛さんのご冥福を祈りたい。