M4 なぜ、決めたことが実行し切れないのか?


ここで言う「実行」とは、「行動を起こして、結果が出るまでやり切る」行為を指す。残念ながら、今の日本の職場は概してコレが弱い。しかも「頑張ったが、期待には届かなかった」というより、「中途半端に始めて、経緯も振り返らず、いつの間にかウヤムヤになって消えていく」ケースが多い。

勿論、全ての職場を指しているわけではない。しかし、大企業ほどこの傾向が強いように思える。なぜこうなるのか? 理由は明らかで、決定時点で当事者が「心底信じ、本当にやりたい事になっていない」からだ。

「心底信じているか」には「使命に突き動かされているか?」を、「本当にやりたいか」には「身体の内から力が湧いてくるか?」を自らに問うてみる。日本の職場はなかなかこのモードになれない。「会社の仕事でそんなモードになれるわけはない」と大半の人が思うなら、個人の問題以前に、明らかに経営の問題だ。

では、経営はどう対処すべきか? 大事なことが二つある。一つは、今の事業は何のためにやっているかを明確に言語化し、関係者で共有することだ。

言語化には「世界 人類のため」や「顧客重視」、「モノづくりで社会貢献」といった獏としたスローガンではなく、提供する製品やサービスによって、自社事業は社会にどのような独自の価値を生むのかを具体的に書き下す。関わる人たちが事ある毎にそこに立ち返り、事業に誇りを持ち、自らの事業活動の大きな指針を得て勇気が湧くことが鍵だ。

この言語化の重要性を軽視するなかれ、企業経営の本質はここにある。売上や利益が上がるのは、それだけの対価を払ってその製品やサービスを望んでいる人がいるからだ。事業行動の意識をここに集中する させる。すなわち「WHY(使命)を明確にし、事業活動の指針として共有する」ことだ。今は、コレがあまりにも疎(おろそ)かにされ、目先の収益だけに追われている。

もう一つは、やるべき事は実行者自身に決めさせることだ。人は他人が決めた事を自分が納得しないまま行っても、力が出ない。

米国流経営手法が広まり本社に経営企画部門が置かれ、そこで戦略や数値目標を立てて全社を動かす事業運営スタイルが一般的になっている。しかし、これには限界がある。特に、単純な右肩上がりにない現在の事業環境では、潜在的な需要や真の課題は顧客最前線や現場に埋もれており、本社はこれらから乖離するばかりだ。実務部隊には的外れな全社一律の決定に、実行力が伴わないのは無理もないだろう。

権限は末端に移譲して、出来る限り実行者がやるべき事を自分で決める。すなわち、「WHAT(やるべき事)は実行者の裁量に任せる」ことだ。前述のWHY(使命)が組織内で確固として共有されていれば、大胆な委譲が可能だ。人は真の目的地が定まれば、自らの工夫で歩み出す。現状では、WHATは当事者の事情とは無関係に上から降され、現場はWHYを問わないままに、ただ指示を作業として処理しがちだ。

組織の中で事業をリードする立場にある人たちには、改めて今の仕事のWHY(使命)を自らの言葉で言語化し、WHAT(やるべき事)を(例え上位者から与えられたものであっても)自分の意思で定めて欲しい。真の実行力は、そこを起点に湧き上がってくる。


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