弘下村塾のワークショップでは、経営リーダーが抱える仕事を緊急度(3段階)と重要度(3段階)に分け、各人の仕事への取り組み姿勢(特性)をレビューする機会がある。分類する仕事の例は、期中の業績チェック、投資案件の意思決定、顧客からのクレーム対応、工場での労災対応、海外からの来賓対応、社員面談や会議など多岐にわたる。
このエクササイズを行うと、自らの仕事に対する特性が見えてくる。当然ながら分類は人によって異なるが、外してはならない最大のポイントがある。すなわち、「緊急度が高い仕事が、必ずしも重要度も高いわけではない」という認識である。
一見当然のことのように思えるが、実際には多くの人が緊急度と重要度を同一視しがちだ。たとえば上司から「早急に資料を提出してほしい」と言われれば、重要なタスクだと受け止めやすい。しかしそれも背景による。そもそも何のための資料なのか、既存資料の編集で足りるのか、新たな情報を盛り込むべきなのかによって、分類は変わる。上司に目的と期待内容を確認することが必要だ。
また、部下から「今日面談させてほしい」との伝言があった場合、この一報だけでは重要度は判断できない。ただし「今日中に何らかの返答をする(会える/会えないを伝える)」という点では緊急性がある。会うかどうかの決断自体は緊急だが、面談の内容次第で重要度は変わる。ここでのポイントは、「緊急度=他者や環境から与えられる期限である」のに対し、「重要度=自らが判断して付与する価値である」ということだ。
重要度の判断には合理性だけでなく、その人の立場や経験も影響する。設計課長と事業部長では、事業キャッシュフローの予実管理に対する感度は異なるだろう。営業出身者であれば顧客依頼を優先する傾向があり、品質管理出身なら製品の性能保証を何より重要と見るだろう。自らの経験に基づく思い込みを自覚し、必要なら外部の視点や他役割の視点を取り入れて補正することが大切である。
私自身は業務上の安全に(時として過大に)重きを置く傾向があると自認している。これは、社会人になって最初に勤めた造船所での経験が影響している。1970年代末、日本の造船所は大型タンカー建造ブームが一段落した時期だったが、建造現場では依然として死亡事故が断続的に起きていた。
希望に燃えて就いた造船技師時代、所内に救急車のサイレンが響くたびに「何十万トンのタンカーといえど、人命より重いものがあるのか」と居たたまれない思いになった。このとき培われた「仕事と安全(人命)への想い」は、その後の会社生活でも私の基準のひとつとして横たわっている。
仕事への取組みは、①周囲からの要請を正しく理解して「緊急度を見極め」た上で、②自らの判断特性の影響を排して「重要度を計る」こと。経営リーダーにとっては、これが肝要だ。
会社生活では「与えられたタスクにどう応えるか」に気持ちが行きがちだが、「どうやるかの前に、何をやるかが先決」だ。やるべき事を的確に見定めてそれに集中できるよう、研鑽を積んで行きたい。

コメント
コメントを投稿