職場で抱えるストレスの大半は、人間関係に起因すると言われる。中でも上司との関係は日々の仕事に直結するだけに、その影響は大きい。上司が「難しい人」かどうかで、会社生活全体の質が大きく左右されると言っても過言ではない。
実際、職場におけるうつ病発症の最大要因が上司・部下間の人間関係であることは、広く知られている。その関係を自分の力ではどうにもできないと感じた瞬間、人は最も深い無力感を覚える。
残念ながら、「難しい上司への対処法」に万能策はない。ただし、これまでの先達の経験や知見を踏まえれば、考え方の指針をいくつか示すことはできる。ここでは、正統法、グランドファーザー法、ジャック・ウェルチ法の三つを記したい。状況に応じて使い分け、あるいは組み合わせることで、現実的な打開策を見出す手がかりになれば幸いである。
正統法
まず基本となるのが正統的なアプローチだ。ポイントは、感情的な反応を一度脇に置き、関係性を構造的に捉え直すことにある。
①自分の感情を横に置いて上司の言動を観察し、
②上司の性格や置かれている立場を理解する。
③なぜそのような態度を取るのかを考え、
④理解と共感を得るためのアプローチを試す。
⑤一度でうまくいかなくても、その都度アプローチを更新して粘り強く繰り返す。
同時に、自分自身の言動を振り返ることも欠かせない。重要な前提条件が共有されていなかったり、同じ言葉を互いに違う意味で使っていたりするだけで、関係が「難しく」見えることもある。これらの過程で第三者からの客観的なアドバイスを得ることも大事だ。特に対人関係においては、自分一人での観察や考えには限界がある。
正統法は、相手を理解する試みであると同時に、自分の主体性を取り戻すプロセスでもある。ただし、このプロセスは想像以上に消耗するので、誠実であるほど限界も早く訪れる。
グランドファーザー法
正統法が機能するのは、上司に一定の対話能力や自己修正力がある場合に限られる。現実には、発達特性などにより、当事者間での調整が困難なケースも少なくない。その場合、上司の上司に状況を伝え、助けを求めるのは合理的な判断である。
もっとも、直属の上司を飛び越える行為を忌避する職場文化もある。そのような職場では、同じ状況に置かれた同僚と連携し、個人対個人の問題にしない工夫が有効だ。外資系企業で見られる「グランドファーザーズルール」(=人事考課に上司だけでなく、上司の上司も関わる取決め)は、関係性の歪みを仕組みで補正しようとする知恵とも言える。
ジャック・ウェルチ法
最後に書き留めたいのが、GEの元CEO、ジャック・ウェルチが(著書「WINNING」の中で)示した考え方だ。彼は次の四つの問いを自らに投げかけることを勧めている。
①その態度は自分だけに向けられているのか
②その上司はいつまで自分の上司なのか
③我慢して得られるものは何か
④そもそも、なぜこの職場で働いているのか
これらは上司を評価するための問いではない。自分の人生をどう引き受けるのかを問い直すための問いである。答えを先延ばしにすることもできるが、その間、時間だけが確実に失われていく。難しい上司との関係を含め、仕事に向き合う根幹は、とりわけ④の問いにある。
上司は選べない。誰が上司になるかは偶然に左右される。振り返れば、私自身も何人もの「難しい上司」と出会ってきた。しかし今では、その存在が反面教師となり、自らの行動を律する大切な糧になっている。正直に言えば、難しい上司(と部下)がいたからこそ、職業人生はより厚みを増したとも思える――ただし、そう言えるようになるまでには、それなりの時間と経験を要したことも偽らざる真実である。

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