M4 「中途半端な事業部制」が会社をダメにする



会社組織には事業部と名がつく括(くく)りがある。同一製品群に関わる商売の機能を全て事業部内にまとめ、事業部単位で製品毎に収益責任を持つ運営形態を事業部制(あるいは、ビジネスユニット制)と呼ぶ。

事業部制は、事業部長が製品毎に開発から設計、製造、販売、アフターサービスまでを一気通貫で管轄・指揮し担当製品の収益責任をもつことで、事業全体で整合性のとれた円滑な運営が可能となり、競争力を高め、確実な収益に結びつけやすい。広範な製品領域をカバーする大手企業では事業部制を採用する所が多い。

しかし、日本企業の事業部制の実態を観ると、事業部と銘打った組織に製造や営業、あるいはアフターサービスなどの一部の機能が含まれていなかったり、事業部長の権限が行き届きにくい仕組みになっていたりするケースが散見される。実は、この「中途半端な事業部制」が職場の連携を阻害し、顧客対応や製品開発を滞らせ、行うべき事業改革を阻む元凶となっている。当然、収益にも悪影響を及ぼす。

特に、大手企業には、広大な敷地に複数の事業の製造機能を集約している所が多い。このような工場には、資産を製品事業毎に分けて計上・管理してておらず、事業毎のバランスシート(貸借対照表)を経営指標に用いていない所も未だにある。さらに、工場をコストではなく、社内振替価格(インターナルトランスファープライス)による収益性で評価していると、自社工場でありながら、あたかも社内に製造委託先があるかのような状態になる。

こうなると、製造部門の独立性が必要以上に高まり、営業や開発部門との連携がスムーズにいかず、顧客ファーストで対応すべき活動が滞りやすい。工場側でも、負荷の平準化や製品改良等に必要な顧客情報の入手や他部門との連携に支障が出るようになる。

潤沢な受注が見込めた大量生産時代には、工場を独立採算部門と見なすことにもメリットはあっただろう。しかし、企業経営の主眼が「いかに作るか」から事業全体で「どうやって新たな価値を生み出すか」に移った今は、デメリットの方が大きい。

同様のことは、営業やアフターサービス部門が事業部の管轄外に置かれた場合にも生じる。本来、事業部長の責任で処理すべき(できる)課題への対応が、社内組織の壁と綱引きによって滞る。特にサービス部門が別会社になっている場合は、事業部にとってこの部門がブラックボックス化(遊離化)するリスクも生じる。このような状態で部門別にいくら改善や改革を繰り返しても、効果は出にくい。

加えて「中途半端な事業部制」には、企業経営にとって致命的とも言えるデメリットがもう一つある。それは、経営人材が育たないことだ。事業部長職に就いても、バランスシートには責任を持たず、事業に必要な機能をトータルで指揮・運営する経験がなければ、さらに上席を担う経営力は磨かれないだろう。

本来、事業部制は肥大化した組織を商売の基本に戻し、職場を強くするものだ。しかし中途半端な導入によって、誰もが責任を取らない / 取れない体質を生んでいる。このままでは肚(はら)のすわった経営人材の輩出もままならず、自己改革にも手がつけられないジレンマが続く。

事業にはどん詰まりで組織の責任を全うする人材が、どうしても要る。先ずは、事業部長に事業運営機能をフルセットで持たせ、自らの責任と権限で結果を出す経営力を身に着けさせることが、日本の職場の焦眉の課題に思える。


(推薦図書)V字回復の経営 三枝匡著 日経ビジネス人文庫