M0 未来への責任を果たす


英国・ウェールズに「未来世代法」という法律がある。2015 年に施行されたこの法律は「国や公共機関が物事を決める際、未来世代を考えたか」のチェックを求めるものだ。国民的な議論を経て、国が目指す7つの目標を定め、関連する 49 の数値指標によって、現世代による決定が未来世代に適合することをガイドする。

49 の指標の中には、居住地として地元に満足している人の割合、出生時体重 2,500 g未満の単胎出生児の割合、性別・障がい・民族による賃金格差、孤独を感じている人の割合、大気中の二酸化窒素汚染レベルなどが含まれる。本法が適正に運用されていることをチェックする権限をもつ大臣級の職が行政府に置かれ、一般市民を含む第三者機関によるオーディット(監査)も行われる。

施行後、自転車専用道路と歩道の整備予算がそれまでの 10 倍になるなど、具体的な変化が起きている。「未来世代法」は、持続可能な社会の中で将来の世代の幸せを担保する仕組みとして、世界が注目すべき取り組みだ。

現代社会は「今の自分の利得」に執着し過ぎている。遠く離れた他者のことは考える余裕がなく、未だ見ぬ次世代のことは意識の中の責任範囲に無い。自分にとって短期的に利がある物事への関心だけが強く、本質的に大事なことを忘れている。利を追いかけているのに、気持ちにも、行動にも、豊かさが感じられない。

エネルギー資源の枯渇も、温室効果ガス排出による気候変動も、国が抱える膨大な借金も、そして国家間の戦争も、我々が「今」と「自分」に執着した結果と言える。

「今」と「自分」への過度な執着から離れるには、「幅広い知見を得て、思考を深め、自らの心を耕す」必要がある。それには、ルーチン化した日常に埋没することなく、多方面からの刺激が要る。その手段は「人、本、旅」との接点だと、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんは言う。同感である。

「人」から、人は最も大きな影響を受ける。自分の人生は自分自身のものだが、自分一人では完結できない。仲間が要る。職場での限られた人間関係に終始せず、積極的に新たな人との出会いを求めたい。

「本」を読むことは、著者の思考に自分の思考を添わせる行為であり、一定量の読書習慣を持っているか否かが、思考力に決定的な差を生む。一人の経験には限りがあるが、本の中には、活字が生まれて以来、時空を超えた膨大な経験知が詰まっている。人生を豊かにする上で本は欠かせない。

「旅」とは、現地に行って現物に触れることだ。活字から得られる刺激とは比較にならないインパクトがある。被災地でのボランティア活動も、理念より、実際に現場に行くことで得る動機の方がはるかに大きい。出来れば旅の滞在は長くし、新たな物事を見るだけでなく、物事を見る新たな目(視点)を獲得したい。

過去2週間、あるいは半年間の「人、本、旅との出会い」をチェックして、もし不十分と感じるなら、生活習慣を見直すチャンスだ。自分の中に眠っている未開の領域を拓くきっかけとなるだろう。

今年は、人から、本から、旅から刺激を受ける中で、未来世代に想いを寄せ、もう一度「人間社会の中で生きる基本」を取りもどす年としたい。

(タイトル写真はウェールズの町エブブベール)


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