M2 SWOT分析は上手く使えますか?


数ある事業分析ツールの中で、SWOT 分析は包括的な事業指針を検討するのに役立つ。SWOT とは、自社の Strength(強み)と Weakness(弱み)、事業環境の Opportunity(好機)と Threat(脅威)の4つの英語の頭文字を取ったものだ。戦略プランの説明資料などに含まれることも多いので、馴染みのある人もいるだろう。

しかし実際の適用では、単に情報を SWOに分けただけで相互間の意味合いを深く考察せずに、既にある結論の参考資料のようになっているケースが散見される。基本に戻って SWOT 分析の要諦を記したい。

最初に注意すべきは、S(強み)と O(好機)、W(弱み)と T(脅威)を混同しないことである。と は内部事情で、自社でコントロールできる要素。それに対し と は外部環境で、自社ではコントロールできない要素だ。自ら「コントロールできる要素(SW)」と「コントロールできない要素(OT)」を区分けすることが、SWOT 分析の肝だ。

例えば、「カーボンニュートラルが追い風となって市場は急成長の途にあり、自社製品Aの売上は好調だ」という情報は、「カーボンニュートラルにより市場が急成長している」:O(好機)と、「製品Aはカーボンニュートラル関連市場の成長に伴って売上を伸ばすことができる」:S(強み)とに分ける。

また、「当社は、高コスト体質から、競争が激化している東南アジア市場で利益を落としている」は、「東南アジア市場で競争が激化している」:T(脅威)と「当社は東南アジア市場で期待される利益が出せるだけのコスト競争力に乏しい」:W(弱み)になる。

このようにして得られた情報やデータを SWOT  に分類した上で、事業環境の O(好機)に対する自社の  S(強み)と W(弱み)、T(脅威)に対する S(強み)と W(弱み)が、自社にとって何を意味するかを考察する。その際のガイドラインは、
O(好機) x  S(強み):事業環境の好機を、自社の強みによって「勝ち取れるか?」
O(好機) x  W(弱み):事業環境の好機を、自社の弱みから「取り逃すことにならないか?」
T (脅威)x  S(強み):事業環境の脅威を、自社の強みによって「乗り越えられるか?」
T (脅威)X  W(弱み):事業環境の脅威が、自社の弱みから「致命的にならないか?」
を問うことだ。

考察から得られた結果を俯瞰して、自社にとって最も重要なポイント(経営のスジ)を見極める。これには多少訓練が要るが、基本は「収益に与えるインパクトの大きさ」と「事業全体への影響度」、そして「それが起こる可能性」の3つから判断する。

これをもとに「現在の自社の S(強み)と T(弱み)にどのような手を加えるべきか」が、SWOT 分析から得られる事業指針のガイドラインとなる。環境変化に対して自社の力量に大幅な不足があったり、自力では変化のスピードについて行けない場合には、M&A などの戦略的な打ち手も考慮する。

SWOT 分析でもう一つ留意すべきは、検討対象の期間を明確にすること。今から何年先までの事業指針を検討するのかで、収集する情報やデータ、考察のポイントも異なる。極めて基本的なことだが、実際の適用ではこの設定があいまいなことも多い。


思考は頭の中で考えるだけでは深まりにくい。収集した情報やデータ、そこから得られた結論(仮説)はアウトプットする。それには、課題に適した枠組み(フレームワーク)を使うとスッキリ整理できることが多い。事業分析ツールは、結果を示すことよりも、それを使う過程に真価がある。SWOT 分析も有効に活用したい。