M2 問題解決に自らの運用知はありますか?



事業運営には課題がつきものだ。これに対処する「問題解決力」が事業運営の成否を握る。特に経営リーダーは、自らの問題解決力が、計画達成にも
、職場活力にも、人材育成にも必須のスキルであることを心したい。

仕事で遭遇する課題は千差万別ゆえ、問題解決も課題に応じてその都度対応するものと考えがちだ。しかし、定石とも言うべき基本アプローチ(ステップ)がある。これを踏襲(とうしゅう)した上で自らの経験知を蓄積していくと、問題解決力は着実に上がる。

基本ステップとは、①事実の収集、②現状分析、③解決案の抽出、④実行計画の立案、<実行> ⑥フィードバックの5つだ。多くの人にとって必ずしも目新しいものではないと思うが、これが PDCAPlan-Do-Check-Act)やシックスシグマの DMAICDefine-Measure-Analyze-Improve-Control)など多くの問題解決アプローチに共通するステップだ。各々の手法は、これらのステップの重点の置き方と細分の仕方に違いがあるものと言っていい。

問題解決力をアップするには、課題に遭遇するたびにこの基本ステップを確認し、これを枠組みに経験を運用知化(言語化)する。そうやってまとめた運用知は人によって多少違いがあろうが、例えば、私の場合は現時点で以下のようなものだ。

① 事実の収集:問題解決の成否は事実認識(Fact Finding)によって8割方が決まると心する。数値で表されるハード情報だけでなく、VOC(顧客の声)のヒアリングや関係者へのアンケート調査などソフト情報の収集にも注力する。

② 現状分析:分析結果は(スライドなどに)アウトプットし、得られた結果をメッセージに落とす。数値配列はグラフに、概念はコンセプト図に表す。また、事実の収集と現状分析のステップでは仮説思考*を繰り返す。

③ 解決案の抽出:解決案は複数案検討し、それらの比較から争点(重視すべきポイント)を明確にした上で最終案を選び出す。場合によってはプランB(当初の計画が上手く行かなかった場合の代替案)を用意する。解決の実行に関わるメンバーには、(遅くとも)解決案の抽出段階から参加を求める。

④ 実行計画の立案:実行の担当者、マイルストーン(鍵となる途中の到達点)を決めるだけでなく、最終達成状態を「映像や動画が浮かぶレベルのイメージ」で関係者と共有する。

⑤ フィードバック:進捗をモニタリングし、計画通り進まない場合は柔軟に計画を見直す。結果を出すには、実行のフォローとサポートが最も重要と心する。


運用知は必ずしも網羅的である必要はない。「勘所」や「留意点」のようなものと捉えればいい。また、上記はあくまで私の場合の例示に過ぎず、これをそのまま覚えてもあまり意味はない。大事なことは、このような例も参考に、自分自身で自らの経験から運用知を体得し書き出すことだ。

自分の体験を運用知として言語化できれば、人に伝えることができる。伝えられた人は、さらにそれを自分の運用知のヒントにできるだろう。これが繰り返されることで、職場全体の問題解決力がアップする。

問題解決力アップの第一歩は、「問題解決に自らの運用知はありますか?」と問われて、自分の経験をもとに(何か一つでも)自らの言葉で言語化できることだ。始めは上手くできなくても、スッキリ整理できていないことへの気づきや、説明できないもどかしさが、更なる運用知強化の動機となるだろう。是非、試して頂きたい。


(註)*「仮説思考」
限られた情報をもとに早い段階から結論を仮定し、その後新たな事実が判明するたびに仮説を更新していく思考法。必要な情報が集まった段階で結論を得る思考法に比べて、結論に至る時間が短くてすむ。また、いつでもその時点での(仮説的)結論が言えることが利点。ただし、新たな事実に即して仮説を更新することには心理的な抵抗が働きがちで、いったん立てた仮説に縛られるリスク(認証バイアス)があるので要注意。