M6 企業不祥事の根っこに横たわるもの


 
トヨタ自動車グループのダイハツ工業で、衝突安全確認試験に不正行為が発覚した。同グループは、昨年、日野自動車の排ガス・燃費不正が報じられたばかりだ。自動車業界では、2016年に発覚した三菱自動車の約25年間にわたる燃費性能改ざん事件が産業界に大きな衝撃を与えたが、その後に至っても同業界でこの種の事件が起きたことに驚愕する。

企業による不正は、関係者がそれと知りながら法律や規則を逸脱するケースが大半を占める。集団でこれが起きる際には、概ね、

①違和感同調>麻痺>体質化>正当化

のプロセスを踏む。すなわち、①始めは指示や慣習と自分の倫理観にギャップを感じる。②違和感を持ちながらも、場の雰囲気に押されて同調行動をとる。③これが度重なると違和感が薄れ、倫理観が麻痺する。④さらに同調行動が続く中で問題が露呈しないと、体質化する。⑤これが継続すると「本来これでよい」と正当化し、体質が一層強化される。

このプロセスで最も注意すべきは「同調」から「麻痺」へのステップだ。同調行動に違和感や葛藤が伴えば、「服従」と言える。「服従」させられている意識があれば、まだ回復の余地もあるだろう。しかしその意識が「麻痺」すれば、以降「正当化」までのプロセスに歯止めはかかり難い。三菱自動車での燃費改ざん事件では、最後は現場で試験結果から改ざん値を算出する逆計算ソフトまで作られていたことが報じられている。

これを阻止するには、先ず組織運営の現場に目を向けることだ。倫理意識そのものよりも、職場の関係性に問題がある場合が多い。鍵は「メンバーが倫理的に違和感を抱いた際、組織がそれを受け止めて自らを正す自浄能力」をもっているか否かだ。これには「上司の部下に対する日頃の振る舞い」が大きくかかわる。

さすがに今は少なくなったと思うが、かつては職場や会議で上司が部下に(不可能とも言える目標数値など)無理難題を押しつけたり、感情に任せて怒鳴り散らしたりする風潮も散見された。会社組織は階級(パワー)意識と共にある。上司が人間関係において未熟な自我をコントロールできず、「独善的な考え」と誤った「パワー意識」に取り込まれると、組織の自浄作用は働かず「不正の温床」を生む。

企業不祥事の根っこには「パワーの乱用」が横たわっている。

特に最上階の上司・経営トップには細心の注意が必要だ。トップの振る舞いが多少なりとも「パワー意識」的だと、直下の部下も同様になりがちだ。さらにこれが組織全体へと波及する。やっかいなのは、トップ以外の上司のパワー意識は「下にはパワーを使い、上にはパワーに殉じる」ことだ。このようなパワー意識に過度に染まった組織は、すでに「不正の入り口」に立っていると言ってもいい。

組織による不正行為を未然に防ぐには「パワーを持っている者が、パワーを誤用・乱用しない」ことが基本だ。職場の「心理的安全性」(Psychological Safety)の担保が、健全な事業運営の基盤である。

(では、経営リーダーはこれをどのように捉え、自らをどう律するべきなのか。次回の留考録に記したい。)