M0 「右手にロジック、左手にパッション」その2つを結ぶもの


「右手にロジック、左手にパッション」は、弘下村塾が掲げる経営リーダーが持つべき資質を表したフレーズである。経営には、自分自身と周囲を納得させる論理性が要る。加えて、論理だけでは多くの他者を巻き込んで行動を起こすには足りず、リーダーの溢れ出る情熱も不可欠だ。

ロジック(論理性)とパッション(情熱)、この2つは一見相反する資質のように思えるかもしれない。しかし、経営現場ではこの2つはさらにもう1つの資質を介して連動している。その1つとは使命感(ミッション)だ。

経営に求められる情熱は、何かに取りつかれたような熱狂的なパッションというより、具体的な社会課題や使命と結びついた貢献や献身性を伴う理性的な情熱だ。社会や職場課題の特定と解決には、物事を冷静に判断する力・論理性が求められる。論理展開に使命感が結びつくと、強い意志となって「静かに燃えたぎるパッション」を生む。経営に伴うロジック(論理性)とパッション(情熱)は、ミッション(使命感)を鎹(かすがい)に結ばれている。

このことは、近年、ベンチャービジネスに身を投じる若者が体現化している。ベンチャービジネスというと、ひと頃は一攫(いっかく)千金を夢見て起業するイメージが強かったが、昨今は社会課題の解決意欲が起点となって起業する若者が増えている。社会使命に裏付けられた情熱は、単に「一儲けしたい」という野心より安定感に富み、多くの人を引きつける。これを国やベンチャーファンドなどが上手く支援すれば、社会変革を推し進める力になるだろう。

問題は、企業に勤める大多数の社会人だ。入社以来、仕事は与えられるもので、自らの社会使命を熟考する機会も少なく、日々仕事に忙殺されるケースが少なくない。これでは「燃えたぎるパッション」は湧きにくい。気分転換で憂さを晴らしたり、一時的な刺激を得て意欲を駆り立てたりしても、長続きはしないだろう。問うべきは、単なるパッション(やる気)ではなく、「ロジックとミッションに裏付けられたパッション(情熱)」だからだ。

したがって、経営に必要なパッションを手にするには、一旦論理に立ち返る必要がある。先ず、①「自分が抱える課題(仕事)認識を一歩踏み込んで明確にする」ことだ。鍵は社会全体の視点から今の課題(仕事)を位置づけ直すことだ。それには現状分析が欠かせない。真の課題は今の認識とは異なる可能性もある。現実に目を見開くことが、新たな心の地平を拓く第一歩だ。

さらにそのプロセスを通して、②「自らが成すべき事と意義を反芻(はんすう)し、使命感を醸成する」。醸成とは、無理やり使命感を持とうとするのではなく、身体の内から湧き上がるのを待つことだ。そのためにも、①の課題認識の質が鍵となる。その上で、③「同じ認識と使命感を抱く仲間と結束する」。ややもすると不条理や不公平に思える会社生活を、それでも理想とパッションを持ち続けて突き進むには、志を共にする仲間同士の支えが必要だ。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を導く弁論術の3要素を、ロゴス(論理)、パトス(情熱)、エトス(倫理・人間性)と説いた。ここで記したロジック、パッション、ミッションに通じる。人間社会を率いるリーダーに求められる資質には、紀元前より二千数百年の時空をまたぐ「普遍の定め」がある。