M4 組織の「タコツボ化」を打破する


直径わずか0.5ミリのシャープペンシルの芯を見るたびに思う。これを自分一人で作るとしたら、どれだけ膨大な作業と時間がかかるのだろうか。鉛を掘り出すことから始めて、一生かけても、いや五生かけても、完成できないだろう。それが40本200円で手に入る。人間社会が創り出した分業の威力だ。

職場も分業で成り立っている。会社が成すべき仕事をいくつもの小さなグループに分割し、ひとり一人は割り当てられたグループの仕事に専念する。数多ものグループが共通の目的に向かって連携することで、分業が成り立つ。分業の鍵は、グループ毎の「専念」とグループ間の「連携」だ。

この内、グループ毎の「専念」は、組織をつくることで進みやすい。同一業務での経験の集積も加速するだろう。分業の威力を得ようとする際により問題となるのは、グループ間の「連携」の方だ。組織内にはいくつものグループ(サブ組織)が出来るので、この連携には注意を要する。

サブ組織の周りに壁ができ、組織内の連携が阻害されることを「タコツボ化」と呼ぶ。タコがタコツボに入り込んで外との接触を閉ざすイメージだ。サブ組織に属すると、その内部事情に沿った見方や判断になりがちだ。加えて、サブ組織同士の横のつながりは、組織内の縦のつながり(上下関係)と異なり強制力を持たない。組織は成り行きに任せていると、縦の関係が横の連携を断ち切って「タコツボ化」する。

サブ組織をタコツボ化させないためには、何と言っても組織の大元を束ねるトップ(サブ組織の上に立つ人)のリーダーシップ力が鍵を握る。各部門が独自の考えで暴走することなく全社視点で最適化された行動をとるには、経営トップが全社が進むべき方向を指し示し、部門長の視座を引き上げ、マネジメントチームとして一つに束ねる必要がある。残念ながら大手企業になるほど、これが心もとなくなるように思える。

タコツボ化の回避には、組織に呼応した連携強化の仕組みで補完することも重要だ。この種の代表的な仕組みとして、以下のようなCFTFCとがある。上手く活用したい。

CFT(クロスファンクショナルチーム)の導入:既存の組織体制では取組みにくい全社課題に、異なる部門から人材を選抜しチーム(CFT)を組み、トップの直轄部隊として解決にあたる。

FC(ファンクショナルコミュニティ)の設定:複数の事業部に同類の業務(設計や営業など)があれば、それらの部門間で定期的に情報を交換したり、ノウハウを共有したりする場(FC)を設ける。

さらに私が推奨する取り組みは、各部門から選抜した次世代リーダー候補がチームを組み、早くから(所属部門より一段上の)全社課題の解決にあたることだ。この活動と包括的なマネジメント教育をセットにした経営実践兼研修プログラムは、参加者の間に部門の壁を超えた強い一体感を生む。これが「タコツボ化」の打破に(も)効く。真の連携は、単なる情報の共有ではなく、「心の共鳴」にあるからだ。

組織はどんな形態であれ、それ自体で完璧なものはなく、それを補完する仕組みとセットで機能するものである。シャープペンシルの芯に見るような分業の威力の発揮には、自社が創出する一人では成せない社会価値の大きさに目を向け、職場の「専念」と「連携」の強化に努めることが肝要である。