M6 「希望のつくり方」


元旦の能登半島地震、翌日の羽田航空機衝突事故と、2024年は波乱の幕開けとなった。災害には年末も年始もない。「我々は、自分ではコントロールできない何か大きな力に支配されている」 地震や台風など、自然の驚異を身近に感じる日本人には、心のどこかにそんな思いがある。

年明け早々の痛ましい出来事で、政治、経済、社会のいずれを見ても思うに任せぬ昨今の世相に一層気が沈みがちになる。そんな中でも「希望」を持って生きるには、どうすれば良いのだろうか。

「かつて希望は前提だった」 しかし、「現代の希望は、もはや前提ではなく、それ自体、私たちの手でつくりあげていくもの」と説くのは玄田有史さん。著書「希望のつくり方」での言葉だ。では「どうやって?」 そのヒントが200ページ余りの本の中に詰まっている。詳細は本書に譲るが、希望を考える上で有益な示唆がいくつも得られるだろう。

本書をきっかけに、私自身は改めてより基本的なことに目が向いた。「希望が持てるか持てないかは自分次第」であること、「状況をもっとよく観察する」こと、「自分がコントロールできることに集中する」ことの3つだ。

同じ状況に置かれても、希望を持てる人と持てない人とがいる。環境からの刺激にどう反応するかは自分自身の裁量の中にある。ナチス・ドイツのホロコーストから生還した精神科医ヴィクトール・フランクルは言う。

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あらゆるものを奪われた人間に残されたたった一つのもの、それは与えられた運命に対して自分の態度を選ぶ自由、自分のあり方を決める自由だ。 

その自由こそが希望の起点となる。そうであれば、安直に環境を嘆くにはあたらないだろう。

環境に反射的に感情が動くときは、状況をよく観察していないことが多い。どんな出来事の中にも希望に結びつく要素はあり得る。先の羽田空港の事故での乗客脱出には、独自の判断で脱出シートを下ろした、最後尾で孤立したCAの英断があったことが伝えられている。多くの人命を救っただけなく、プロとしての仕事の価値を伝える行動だった。さまざまな出来事の中にプラスの要素を見出す観察力が、希望をつくることにつながる。

さらに希望をつくる際には、自分がコントロールできることに集中することが肝要だ。自分ではコントロールできない出来事に遭遇したとき、それに気を病むのではなく、その分コントロールできることに力を注ぐ。それが希望を引き寄せる第一歩となるだろう。

経営リーダーにとっては、先ずは会社を希望の持てる職場にすることだ。日本人の心には、自然災害への「服従」と「諦め」の境地からか、職場を含めた社会行動にもこの二つがまん延しているように思える。ここは果敢に立ち向かうべき所だ。

「希望は(環境にではなく)自分の裁量にあることをココロし、状況を注意深く観察して、自分がコントロールできることに集中する」 私の希望のレシピ―には、これが最初の一行に書かれている。

 

(推薦図書)希望のつくり方 玄田有史著 岩波新書1270 2010年初版