ChatGPT や Midjourney に代表される生成AIは、文明の利器か、それとも人類の脅威か? この問いへのヒントを得るべく、先ごろ米スタンフォード大学ビジネススクールで対面5日間のエグゼクティブコースを受講した。
コース名は、”Harnessing AI for Breakthrough
Innovation and Strategic Impact”(革新的イノベーションと戦略的インパクトへの人工知能の活用)。スタンフォードの教授陣がAIをテーマに総力を挙げて研修プログラムに仕立てた5日間のコースに、世界17か国から60名が参加した。
コースは、機械学習(ML)、大規模言語モデル(LLM)、自然言語処理(NLP)、アルゴリズムとデータ処理、知覚とコンピュータービジョン、インダストリー4.0とロボット、AI とゲノム医療、AI 駆動の組織運営、未来の職場、倫理課題と法整備、自律・信用課題など、AI の社会実装に伴うテーマを包括的にカバー。圧巻だった。
コースを通して得た、冒頭の問いに対するスタンフォードの答えは、「AI(Artificial Intelligence)を脅威と見るのではなく、IA(Intelligence Augmentation:知能増強)と捉え最大限活用すべき」とのことのようだ。「 IA 」とは AI を知能の外付け機能(ツール)として、人間の能力を拡張することを意味している。
複数の登壇者が、”AI predicts, human decides.”(AI が予測し、人間が決定する)と言っていたのが印象的だった。確かに、いくら ChatGPT が人間のように応答しても、AI に意思や感情があるわけではない。志を持って意思決定するのは人間の役目だ。
現時点での AI の開発課題は、①トレーニングデータ(AI が蓄積する情報)の質を担保する、②大規模演算によらず、省エネで的確なアウトプットを出すアルゴリズムを確立する、③人間との接点をよりナチュラルにするために、AI の短期記憶容量を上げると共にプロンプト(入力情報)の受信力を拡張する、とのことだ。これらの課題克服にも AI が使われる。AI の情報処理能力と言語化力は、今後ますます高まるだろう。
職場では、これまで人間が多くの時間を割いてきたデータや情報の収集・分析作業を、AI が高精度、かつ、超高速で処理するだろう。さらに計画や提案・アイデアも、まず生成AIが素案を作成し、人間はそれに修正や新たな考えを付加することによって、これまでより格段に楽にアウトプットできるようになる。今後人間に求められる力は、過去の情報収集・分析力(左脳系能力)より、AI が出したアウトプットを評価する専門性と未来に向けた構想力(右脳系能力)だ。
スタンフォードのクラスでは、ディスカッションテーマに「直面する社会課題に AI をどのように使うべきか?」が出された際、経営者層までもが即座にスマホやパソコンから AI (ChatGPT)に答えを問う、ブラックジョークのような光景を目の当たりにした。人間社会が後戻りできない新たな世界に突入したことを実感する。
人類はこれまでにも多くの人工物を創出し、自らがそれらに影響を受けながら進化してきた。しかし、いつの世も人間に求められるのは、自らの創造物の使い道を誤らず、人間と人間社会に利するよう使いこなすことだ。
AI が経験の集積と分析を担うことで、人間は未来に向かう創造性や意志の力をさらに開花し増強できるだろう。そんな新たな世の中の到来に期待が膨らむ。
コメント
コメントを投稿