M2 脱・「見せかけの計画、お仕着せの改革」ー 事業改革の勘所は?


 
「この計画で売上と利益が3年後から急に上昇するのは、なぜですか?」こう尋ねても、説得力のある応えは返ってこない。経営塾で受講生が示す中期事業計画をレビューすると、こんなことが良くある。将来の願望とお題目だけで具体的なプランがなければ、3年先の収益改善は、計画更新のたびに、また3年先に追いやられる。

業績が上向かないと「収益改善には売上を上げるより、コストを下げる方が手取り早い」と考える経営トップもいるだろう。窮した会社が奔(はし)りがちなのが「人員削減による固定費カット」だ。だが、これだけでは将来の持続的な成長は望めない。本来、事業改革は、①「組織の無駄の整除」、②「事業運営体制の立て直し」、③「事業ポートフォーリオの再編」の3つがセットだ。

人員削減プランもこれらに付随して企図すべきものである。コストターゲットから逆算して、削減目標だけを現場に押しつけても上手くは行かない。「社員の改革心に火がつかない」からだ。要点を記したい。

    組織の無駄の整除:
事業活動に変化がなく業務がルーチン化すると、メンバーには慢心が生じがちだ。そんな中で管理指向が強い会社ではスタッフ部門が肥大化してくる。これを放置すると、ある時期に一度に大きな固定費削減をせざるを得なくなる。

ただし、これを繰り返えせば組織の求心力が損なわれる。優秀な社員が辞め、残る社員も「削減疲れ」から先を目指す気力が湧かない。この種の改革には、無駄の整除と共に「スリム化した後の成長プランを明確に示す」ことが必須だ。単なるお題目だけの収益予測だけでは「人を束ねる」ことは出来ない。

次に取るべきステップを明確にした上で、組織のスリム化(人員削減)は一気呵成に、かつ大胆に実施する。完了したら早期に「終結宣言」を発することも大事だ。社員の心を後ろ向きなリストラ・マインドから解放し、出来る限り早く前向きな成長マインドに転換することが鍵だ。そのためにも、リストラ時にはリストラ後のアクションプランの提示が欠かせない。

    事業運営体制の立て直し:
収益が伸び悩む会社には、無駄があるだけでなく、「利益を出す体制(組織と仕組み)が整っていない」ことが多い。「リストラさえすれば、後は皆で頑張れば上手く行く」とは(通常は)ならない。部門間の連携が悪く、顧客の声が社内の隅々まで行き届いていない。特に工場の所在地が離れていると生産部門が乖離して、営業と生産、生産と開発間の連携が滞りがちだ。

また(大手企業などで)アフターサービス部門が子会社となっていると、事業運営上ここがブラックボックス化され、事業収益が全体最適化され難い。特に子会社の社長職が本社の事業部長経験者の天下り先になっているようだと、やっかいだ。本来は、アフターサービス子会社の社長経験者が本社の事業部長職に就くのがスジで、その方が事業運営上も、経営人材育成上も上手く行く。

要は事業部長職(やビジネスユニット長職)が、担当製品の開発からアフターサービスまでの責任と権限をトータルで持ち、自らの職権で収益責任を果たせる事業運営体制を再構築することだ。

    事業ポートフォーリオの再編:
事業構造改革の本丸は「既存事業の仕分け」と「新規事業の創出」だ。この内、新規事業創出は一朝一夕に成し得るものではなく、世の中の動きを見極め、ターゲットを絞った開発投資を着実に続ける必要がある。もしキャッシュに余力があるなら、M&Aも打ち手となり得る。

既存事業の仕分けは、これまでの業績結果とこれからの市場動向から、「伸ばす」、「維持する」、「捨てる」の3つに分類する。この内、最も重要なのは「捨てる」決断だ。外部とのタイアップや売却による統合も視野に入れる。しかし、日本の(特にサラリーマン)経営者には、大赤字でも長年続けてきた事業の清算には躊躇する人が少なくない。

ある企業で長年赤字を出している製品事業を分析した際、過去10年間の累積損失を算出したことがあった。単年度では見たこともない桁違いの赤字額で、以降も自力での改善見通しは立たなかったが、経営トップは「捨てる」判断がつかなかった。

しかも、こともあろうか他の儲かる事業と一緒にして新たな事業部として再編してしまった。この製品に関わる社員は、将来の展望も有効な施策も示されないまま、損失の責めを負いながらその後の日々を送ることになる。その心情と職業人生を想えば、別の選択肢もあり得たはずだ。

いずれの改革にも、大がかりな社員の配置転換や(場合によっては)失職等の痛みを伴う可能性がある。これを乗り越えて進むには、この種の改革は「全社一丸で取り組む」ことだ。いくらトップが真っ当な方針を出しても、組織の末端に行くほどエネルギーは減衰する。先ずは「組織の結節点」に立つ中間管理職(次世代リーダー)が改革の意義と必要性を共有し、「改革を自分のものと思える」ことが必須だ。

この際、社員とのタウンホールミーティングを試みる経営トップもいるだろう。しかし(やり方にもよるが)、これは往々にして経営側の自己満足に終わり、改革の推進に期待するほどの効果を生まない。タウンホールミーティングは、本来、経営と社員をつなぐために平時から行うべき取組みだ。改革にはもっと実質的に社員を巻き込み、経営者と社員が一体となった取組みが必要だ。

最も実践的な方策は、製品事業毎に改革方針に呼応した経営課題プロジェクトを3つ前後、トップ直轄で立上げることだ(まさに弘下村塾で行う経営課題解決プロジェクトと同様だ)。

プロジェクトリーダーには次世代経営リーダー候補を据える。この際のトップの役割は、指示したり、報告させたり、チェックしたりする事ではなく、各プロジェクトが意図した成果を出せるよう社として全面的に(物心両面から)サポートすることだ。改革の主人公は、あくまで現場のリーダーであるべきだ。

経営資源は、人、物、金だが、この内、人だけは異質の資源だ。物と金は価値が固定しているが、人は意思次第でアウトプットの価値が大きく変わる。経営トップが収益(金)だけを追いかけて、人を看ていないと、改革は十中八九失敗に終わる。ここに事業改革の勘所がある。


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