M5 エレベーターピッチの極意


エレベーターピッチとは、エレベーターに乗り合わせた極短時間で相手の心を動かすプレゼンテーションのこと。通常のプレゼンとの違いは、極短時間で完結することに加え、予め計画されておらず、パワーポイントスライドもない点だ。

典型的な例は、エレベーターで偶然乗り合わせた部門長から、1週間前に検討を依頼された課題について「君、あの件どうなっている?」と訊かれたような場合だ。偶然の出会いと突然の質問で、つい「はい、今やっています」などと応じてしまいがちだが、この種の応対にも心得ておくべき要点がある。

要点1:先ず相手の質問の意図を押さえ、この機会をどう利用するかを即座に判断する
上述の例では、部門長はあの件が「順調に進んでいるのか、現時点で何か分かったことがあるのか」が知りたいのだろう。当然ながら「今やっています」では返答にはならない。ここに焦点を当てた上で、さらにこの機会に彼に理解してもらいたいことや、依頼すべきことがないかを(これも即座に)整理する。

要点2:最初に結論を伝える
時間が限られているので、先ず相手の質問にストレートに応える。例では、あの件は「順調に進んでいる。現時点でこのようなこと(仮説)が言えそうだ」、もしくは「思いの外、難航している。このようなことで困っている」などになるだろう。出来る限り簡潔に伝えることが鍵だ。

要点3:時間の長さに応じて話の深さを調整する
結論を伝えた上で、その際の相手の反応と時間に応じて特定部分の話を深める。すでに結論は伝えてあるので、ここでは多少意思疎通に手間取ってもヨシとする。こちらから働きかけること(理解して欲しいことや依頼事項など)があれば、ここで伝える。

要点4:別れ際に次のステップを共有する
会話の中で指示や決まった事があれば、リピートする(念を押す)。最後は(相手の後ろ姿に向けてでも)「詳しくは後でメールする」、「次回の会議で指摘された点について説明する」、「別途時間を設けて説明したい」など、次のステップを伝えて締めくくる。

エレベーターピッチは、数あるコミュニケーションスキルの中でも最も難しい部類に入る。直ぐに上手く出来るものではないかもしれない。このような機会に遭遇したら、上手く出来たこと、出来なかったことを振り返り、次に活かすポイントを書き留めておくといい。これを繰り返すことで着実に上達する。

また、常日頃から自分の言いたいことを1分以内でまとめる訓練も役に立つ。1分でもかなりの情報を伝えられる。慣れてきたら、30秒、15秒にもトライしたい。駆け出しの経営コンサルタント時代、1時間の予定だったプレゼンテーションがクライアント側からの直前の要請で15分になったことがある。英語でのプレゼンで、1時間のつもりでリハーサルを重ねていたので、パニックになったことを覚えている。

近年では、ビジネスアイディアに出資者や協力者を募るプレゼンテーション(ピッチ)大会でも、1案件あたり5分程度の発表が定番となっている。どんなテーマであっても1分でまとめるスキルは身につけておきたい。

エレベーターピッチが上手く出来る大前提は、自分の仕事に情熱(パッション)を持って取り組んでいること。そうであれば、上述のステップもテンポよく進みやすい。「論理とスキルだけでは、人の心は動かせない」ことを改めて付記したい。