M2 緊急事態への対処法―外せない5つのポイント



事業運営には、予期せぬ緊急事態がつきものだ。海外プロジェクトの大幅遅延、設計瑕疵による製品リコール、主要サプライヤーの倒産、自社工場での人身事故――いずれも一歩対応を誤れば、事業や会社の信用に深刻なダメージを与えかねない。こうした局面では場当たり的な対応ではなく、「初動で何をどう判断し、どう動くか」がその後の成否を大きく左右する。だからこそ平時から対応の基本を整理し、肚を決めておくことが欠かせない。

個々のトラブルごとに具体的な対応策は異なるが、この種の緊急事態には外せない共通のポイントがある。「トップが直接関与する」、「目的・目標・期限を明確にする」、「短期決戦必勝型の戦力を投入する」、「メンバーの力を信頼し支援する」、「結果をレビューし成果に報いる」の5つである。

トップの直接関与
社運を左右するような緊急事態では、トップが指揮官として前面に立つことが不可欠だ。鍵は、トップ自身が一次情報に直接触れることである。情報が錯綜しがちな局面で、意思決定の軸を一本に保つためには、指揮系統の明確化が欠かせない。

目的・目標・期限の明確化
「この事態を収拾することが、会社や社員にとって何を意味するのか」を言語化し、「いつまでに、どの状態に持っていくのか」を明確にする。その認識を関係者全員で共有することで、現場の判断力と行動の質が揃ってくる。

短期決戦必勝型の戦力投入
最も重要なのは、「早い段階で、適格者を、専任で、必要十分な戦力を投入する」ことだ。私自身、海外プロジェクトの大幅な遅延対応で、初動の戦力投入をためらい、現地の負担に頼った結果、問題を長期化させてしまった苦い経験がある。「まずは現場で何とかしてほしい」という判断が、結果として傷口を広げた。後になって本社から人と知見を一気に投入すると、事態は驚くほど早く収束した。緊急時ほど、戦力の出し惜しみは禁物である。

メンバーへの信頼と支援
エース級の人材を投入したら、最後まで彼らの力量を信頼することだ。経営リーダーが、現場の技術的・実務的な課題解決に最も長けているわけではない。コマゴマしたことに口出しを増やすより、必要な支援を迅速に行うことに注力したい。そのためにも、「会社の力は社員の力の総和である」と信じられるだけの人材育成を、平時から積み重ねておくことが大事だ。

結果のレビューと応報
事態が収拾したら、必ず経緯と結果を振り返り、関係者の労をねぎらう。非常時にはメンバーに大きな負担をかけることも多い。だからこそ、その行動の価値と意義を正しく伝え成果に報いることが、次の非常時への備えにもなる。

緊急事態への対応には、トップの経営リーダーとしての資質が如実に表れる。鍵は「平時からの肚決め」と「的確な戦力投入」、そして「仲間への信頼・支援」である。辛い経験を乗り越えた後、組織は一段と強くなる。経営リーダーは、緊急事態にこそ怯むことなく、果敢に、そして冷静に向き合いたい。


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