M10 地域社会で経営力を育てる―兵庫県経営者協会での経営塾



経営力養成の場は、一つの会社の中だけに限られるものでもない。異なる業界、異なる企業、異なる経験を持つ人々との出会いの中で、人はより広い視野と判断力を身につけていく。その点から、地域社会全体で次世代の経営力を育てることには大きな意義がある。


地元企業の経営者たちが講師となり、自らの事業経験や事業への想いを、業界や会社の枠を越えて次世代へ伝えていく。そのような場があれば、一社内の教育だけでは得られない学びが広がる。現役経営者が困難な局面をどう乗り越えたのか、先が見えない中で何を拠り所に意思決定したのか、人心を束ねるためにどのような工夫を重ねたのか。そうした実体験は、教科書では学べない生きた教材となるだろう。


その際、単に経験談を語るだけでなく、経営力の3要素(課題特定力、解答提示力、組織実行力)や、弘下村塾での経営力の六領域
(M1~M6)のような経営のフレームワークに照らして論点を整理すれば、経験はより立体的に理解できるようになる。経営者自身にとっても、自らの経験を振り返り、概念化する機会となるだろう。弘下村塾では、現役経営者が自らの経営経験を講演やセミナーに展開する際のプレゼンテーションや資料編集のサポートも行っている。こうした知見が地域社会の中に蓄積されれば、次世代の経営力を育てる有力な社会基盤になり得る。


私がこのような学びの場の実施母体として最適と考えているのが、各都道府県の経営者協会である。経営者協会は、地域に根差した企業の経営者が集う組織であり、業界や企業規模を超えたネットワークを有している。私は二〇一二年から約八年間、兵庫県経営者協会のご尽力のもと、「次世代経営リーダー養成塾」を主宰した。対象者は、兵庫県下の企業で
将来経営リーダーとして期待されている中堅社員。プログラムでは、経営に必要なスキルやマインドをワークショップ形式で学ぶとともに、地方自治の課題解決にも取り組んだ。さらに、県下企業を訪問し、施設や工場を見学するとともに、経営者から直接講話を聴く機会を設けた。この活動の累計卒塾生は約七〇名、参加企業は三〇社近くに及んだ。


参加者から寄せられたフィードバックも印象的だった。「今までただ何となく大切だと思っていたことも、
なぜ大切なのかを考え続ける機会になった。これからは自分が会社を変えることを意識していきたい。」「さまざまな企業や職種の立場や考え方に触れることで、自分の小ささが分かった。まずは自分自身が変わることを実践したい。」「守られた環境の中にいる自分にとって、外部の方々との交流を通じて刺激を受けながら、企業人としての感覚を養うことは非常に重要だと思った。」


私は、これらの言葉の中に経営力育成の本質を見る。人は一つの会社の常識の中だけにいると、知らず、知らず視野が狭くなる。しかし異なる業界、異なる企業、異なる価値観を持つ人々と交わることで、自らの前提を相対化できる。経営力とは、まさにそのような視野の広がりの中でさらに育まれるものなのである。


残念ながら、コロナ禍による中断もあり、県下の経営者の皆さんに広く講師として参画していただく構想をこのプログラムに実装するまでには至らなかった。しかし、このような取り組みが、単に次世代経営人材の育成にとどまらず、企業間連携や地域経済の発展を支える基盤にもなり得るものと思う。


地方創生や地域経済活性化の重要性が叫ばれて久しい。しかし、地域経済を支えるのは最終的には企業であり、その企業を支えるのは人である。地方には事業承継や人材育成に課題を抱える企業も少なくない。企業の枠を越え、地域全体で次世代を育てる仕組みが求められているのだと思う。


経営力は、人とのかかわりの中で鍛えられる。そして、その経験や知恵を広く次世代へ手渡していくこともまた、経営者の大切な役割であり、使命とも言える。経営者協会を核としたこのような取り組みが各地に広がって、日本の地域社会に次世代の経営力を育てる新たな土壌が生まれることを願っている。

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