ー 理念(使命)は自社固有の視点で語ること。
日本企業の理念に使う言葉には定番がある。「顧客満足」や「社会貢献」、「技術革新」や「社会イノベーション」、「誠実」や「努力」といったものだ。ハッキリ言って個性に乏しく、競合他社や、さらには他業界の会社と入れ替えても、全く違和感がないものも少なくない。
企業理念の策定に全社レベルのプロジェクトを立ち上げて、「皆が納得する理念を、皆で作ろう」などとすると、こうなる。作成にかかわる人が多いほど、素案の角が削がれ、結果として道徳標語のようになりがちだ。本来、企業理念は「事業に対する内から湧き出る意志にもとづく」ものだ。当然ながら、トップの思いとリーダーシップが起点となる。
理念は概念ではなく、使命と捉えて「自社の事業を通して、社会にどんな固有の価値を創出するのか」を中心に置くと、腹落ちしやすい。日清食品の企業理念「食足世平、食創為世、美健賢食、食為聖職」などは、その秀逸な一例と言える。
ー 理念を事業活動で具現化する仕組みをもつこと。
理念は、額に入れて壁に掲げれば、それで終わりではない。日々の事業活動で社員が体現化し、長い年月の試練に耐えて息づく。それには「理念を具現化する仕組み」を持つことが必須だ。
端的な仕組みは、理念の中の重要項目を人事考課の評価対象として、報酬システムと連動させることだ。理念に合致した行動によって成果を上げた社員を褒賞する制度も有効だ。そのためのプロセス指標(参照:M2 KPIは正しく使えていますか?)を定めて、全社でフォローすることも考えられる。
ー もう一つは、理念を社員に浸透させる施策を恒常的に打つこと。
掲げたメッセージが理念にまで昇華するには、社員がそれに共感し、自らの行動規範となるまで浸透させる必要がある。
この点では、ジョンソン・アンド・ジョンソン(米)の「我が信条(Our Credo)」の取組みが参考になる。J&Jは、Our Credoに掲げた「ステイクホルダー(事業利害関係者)の優先順位」を社員の行動規範とすべく、全世界13万人の社員を対象に、毎年意識・行動調査(Credo Survey)を行うと共に、幹部のマネジメント教育(Credo
Workshop)、社員とのワン・オン・ワンの評価面談など、Credo 精神にもとづく施策を年間の活動ルーチンに組み込んでいる。世界から賞賛を浴びた、1982年に発生したタイレノール事件での顧客第一の迅速な対応は、これらの取組みに裏づけられている。鍵は「恒常的な取組み」だ。