M6 あなたの会社の企業理念はピンときますか?



よく社長室や会議室などに額に入って飾られている「企業理念」。多くの会社で目にするが、どこまで具体的な事業活動に活かされているのか、そもそも社員にはピンと来ているのだろうか。日本企業が掲げる理念に関する改善点を3つ示したい。

ー 先ず、 理念(使命)は自社固有の視点で語ること。
日本企業が理念に使う言葉には定番がある。「顧客満足」や「社会貢献」、「技術革新」や「イノベーション」、「誠実」や「努力」といった類だ。残念だが、これらの言葉が散りばめられた理念は、個性に乏しく、競合他社、さらには他業界の会社と入れ替えても全く違和感がないものが少なくない。

企業理念策定のために全社プロジェクトを立ち上げて、「皆が納得する理念を、皆で作ろう」とすると、こうなりがちだ。作成にかかわる人が多いほど、素案の角が削がれ、結果として道徳標語のようになってしまう。本来、企業理念は「個々の事業に対する内から湧き出る意志にもとづく」ものだ。当然ながら、トップの強い思いとリーダーシップが起点となる。

理念は概念ではなく「使命」と捉えて、「自社の事業を通して、社会にどんな固有の価値を創出するのか」を中心に据えると、肚落ちしやすくなる。例えば、日清食品の企業理念「食足世平、食創為世、美健賢食、食為聖職」などはその秀逸な一例と言える。漢字四文字のセットで表されている点にも独自性がある。

ー 次に、理念には事業活動で具現化する仕組みを伴うこと。
理念は額に入れて壁に掲げれば、それで終わりではない。日々の事業活動で社員が体現化し、長い年月の試練に耐え抜くことで息づく。それには「理念を具現化する仕組み」を持つことが必須だ。

端的な仕組みは、理念の中の重要項目を人事考課(報酬や昇格)の評価対象とすることだ。理念に合致した行動によって成果を上げた社員を特別に褒賞する制度も有効だ。そのためのプロセス(行動)指標(参照:M2 KPIは正しく使えますか?)を定めて、理念の事業活動への浸透度をモニターすることも助けになる。

ー もう一つは、理念を社員に浸透させるための施策やイベントを定期的に打つことだ。
掲げたメッセージが理念にまで昇華するには、社員がそれに共感し自らの行動規範となるまで繰り返し啓蒙する必要がある。

この点では、ジョンソン・アンド・ジョンソン(米)の「我が信条(Our Credo)」の取組みが参考になる。J&Jは、Our Credoに掲げた「ステイクホルダー(事業利害関係者)の優先順位」を社員の行動規範とすべく、全世界13万人の社員を対象に、毎年意識・行動調査(Credo Survey)を行うと共に、幹部のマネジメント教育(Credo Workshop)、社員とのワン・オン・ワンの評価面談など、Credo 精神にもとづくイベントを年間の活動ルーチンに組み込んでいる。

世界から賞賛を浴びた、1982年に発生したタイレノール事件での顧客第一の迅速な対応は、これらの取組みに裏づけられている。鍵は「恒常的な啓蒙」だ。

上場企業は四半期毎の業績報告(IR)が義務づけられ、経営者も社員も短期的な売上や利益に目が奪われがちだ。しかし、経営の本質は、売上規模や効率以前に、「事業活動によって社会にどんな価値を創出するか」にある。そのためには、単なるお題目ではない、肚の座った企業理念とその具現化の仕組みが欠かせない。


それぞれの理想に燃え、揺るぎない事業理念のもと、社会に独自の価値を生み出す次世代リーダーが一人でも多く出現することを願って止まない。