M6 研修での「学び」を「武器」にする手引き


セミナーやワークショップなど社内外の研修に参加する機会もあると思う。職場では得られない刺激を受ける「学び」の場だが、往々にして「学びはその場限り」になりがちだ。職場に帰ればいつもの現実に引き戻される。研修が「実務に役立っていない」と感じる人は意外に多い。

「役立っていない」と感じる理由には、大きく二つあると思われる(ここでは研修自体は有益との前提に立つ)。一つは「学び切っていない」こと。「学び」が中途半端で、役立つレベルまでに至っていないケースだ。もう一つは「使う想定がない」こと。「学び」を自分の業務のどの場面でどう使うのかが考えられていないケースである。研修での「学び」を仕事で使えるレベルに押し上げるための手引きを3つ示したい。

手引き1:「学び」は言語化する。
先ず、「学び」は、自分の言葉で言語化する。例えば、研修で「コーチング」について学んだとする。ロールプレイまでやってコーチング作法を学んでも、それで終わりにしてはいけない。「コーチングとはどんなコミュニケーション方法で、どこが勘所で、何に注意して行えば良いか」を自分の言葉で(資料に頼らず)語ること。言葉にしてみると、理解し切れていない部分が明らかになる。「言語化できることが、学び切ったかどうかの最初の試金石」と心得る。

言語化のタイミングは、研修直後がいい。帰りの電車の中などは最適だ。頭の中でブツブツやってみる。人間の記憶は24時間で急激に失われると言われる(エビングハウスの忘却曲線*1)。「記憶が鮮明な内に、学びを自分の言葉に置き換える」と、忘却曲線に歯止めがかかる。

手引き2:「学び」を人に伝える。
研修から戻ったら、「学び」を職場の仲間に伝える。質問されたり、反応を診たりすることで、「学び」はさらに強化される。「学び」の定着度は学習手段によって異なる(ラーニングピラミッド*2)。講義を聴く、本を読むなどの受動学習(パッシブラーニング)より、議論する、自らやってみるなどの能動学習(アクティブラーニング)の方が、学習効果が高いと言われる。中でも、「人に教える」ことが、最も学習効果が高い。加えて、仲間に伝えることで「学び」が共有されれば、研修効果が職場内に波及する。

手引き3:「学び」を自分の生活パターンに織り込む。
一週間、あるいは一か月間の生活パターンの中で「学び」を使う場面を探し、先ずは「試す」。例えば、「スライド作成時のパワーポイント思考法」(参照:”問題解決力をアップする「パワーポイント思考法」”)を学んだとする。これまでパワポには馴染みがないとしても、実務の中でスライドを作成する可能性を探る。その際、「先週までは口頭で行っていた月曜日の朝礼で、今後は要点を2~3枚にまとめたスライドを使う」などといったアイディアが浮かんでくれば、これを試してみる。要は、特別にさらに学習時間を取るのではなく、「今の実務(出来れば、定期的に行うルーチン)の中で、ムリなく試す」ことがコツだ。

研修は、あくまで仕事に役立つヒント・「道具」を得る場だ。「道具」は、実際に使ってみて自分にとっての有用性をチェックし、さらに使い込んでこそ「武器」となる。折角得た研修での「学び」を仕事に役立つ「武器」に出来るかどうかは、研修後のチョットした努力と工夫にかかっている。心したい。



(註)
*1 「エビングハウスの忘却曲線」
一度覚えたことを思い出すのにどのくらいの時間を要するかを、覚えた時点からの時間経過で表したグラフ。ヘルマン・エビングハウスらの実験結果から示されたことから、このように呼ばれる。

*2 「ラーニングピラミッド」
学習手段に応じて知識の保持率(以下のカッコ内)が異なることを示すモデル。講義を聞く(5%)、読書する(10%)、視聴覚体験をする(20%)、実演を見る(30%)(ここまでがパッシブラーニングで、以降がアクティブラーニング)。討議する(50%)、自ら実演する(75%)、人に教える(90%)の順で学習効果が高まる。ただし、パーセンテージの数字には、実験などによる根拠はないとされる。