M3 会計基礎コース101:お金の価値は手に入るまでの時間によって変わる

 


「今もらう1万円」と「3年後にもらう1万円」とでは、どちらの価値が高いと感じるだろうか? 両方とも額面は同じ1万円だが、大半の人が「今もらう1万円」の方が価値が高いと感じるだろう。直ぐに使える、貸せば利子がつく、これを元手にさらに額を増やすこともできる。今もらう1万円は、3年後にもらう1万円より、明らかに価値が高そうだ。

では、いったい額にしていくら高いのか。10円? 100円? それとも1,000円? これに答えるには、預金金利の考えが役に立つ。仮に、年2%の利息がつくと、今もらう1万円は3年後には、10,000 X 1.02 X 1.02 X 1.02 = 10,612円となり、612円高いことになる(利率2%は今の日本の銀行金利と比べると大幅に高いが、それは一端横に置く)。

この計算は、今もらう1万円と3年後にもらう1万円を「3年後の価値で比較」したものだ。すなわち、3年後にもらう1万円の価値は、3年後の時点で1万円。今もらう1万円は、3年分の利息を加えると、3年後には10,612円になると計算した結果だ。

少し面倒に思うかもしれないが、これを(3年後ではなく)「現在の価値で比較」するとどうなるのだろうか。当り前だが、今もらう1万円の現在の価値は1万円。問題は、3年後にもらう1万円の現在の価値はいくらか・・である。計算はさて置き、この額が1万円より少なくなることは容易に想像つくだろう(冒頭で触れたように、3年後にもらう1万円は今もらう1万円より価値が低い。)

実際の計算は、金利計算と同じ考えを使う。ただし、今もらう1万円に3年分の利率を乗じるのではなく、3年後にもらう1万円を3年分の利率(この場合は「割引率」と呼ぶ)で割り引く。計算は、10,000 ÷ 1.02 ÷ 1.02 ÷ 1.02 = 9,423円 となる(末尾で補足する*1)。これによれば、3年後にもらう1万円は、今もらう1万円より現在の価値にして577円安いことになる(割引率2%が前提)。

事業を行う上での複数年度にまたがるプロジェクトや投資回収は、この「将来手に入るお金(キャッシュ)は、年数と割引率に応じて減額し、今の価値に換算する」考え方に立つ。これを「現在価値法」(英語でNPV*2法)と呼び、経営実務の上、大事な意味を二つ含んでいる。

一つは、NPV法が「将来の不確定要素を考慮した意思決定」ツールになることだ。経営の意思決定は、将来の不確定要素の勘案次第で判断が分かれる。NPV法は、リスクに応じて割引率を設定することにより、予測や計画に将来の不確定要素を定量的に算入することを可能とする。

もう一つは、NPV法が「手持ちのキャッシュは速やかに処理する」意識を促すことだ。お金は、何もせずに寝かせておけば、時間と共に(将来に持ち越すほど)価値が下がる。NPV法の投資評価に慣れると、「キャッシュを持ったら、真夏の暑い日にソフトクリームを手にした」ように機敏に対処すべき感覚が研ぎ澄まされてくる。

事業経営では、ともすると単年度毎の収益に気を奪われがちだが、将来をも見据えて「お金の価値は時間 t の関数:¥ = f(t)」と捉えることが肝要だ。時間は誰もに与えられた掛け替えのない財産だ。事業経営の成否も時間(スピード)にかかっている。「現在価値法」がこれを端的に物語っている。


註)
*1 3年後の1万円の現在の価値が(割引率2%で)9,423円になることは、現在の9,423円が(利率2%で)3年後に1万円になることを意味する。
9,423 X 1.02 X 1.02 X 1.02 = 10,000
すなわち、利息の計算と「現在価値法」は同じ考え(計算論理)にもとづいている。

*2 NPV:は、Net Present Value(正味現在価値)の頭文字をとったもの(参照:M3 その M&A、GO か NO GO か?)。