思考術のもう1つの型は、「インプット情報の抽象度(あるいは具体性)を見極める」ことだ。これには「マトリョーシカ」をイメージするといい。「マトリョーシカ」とは、サイズの異なる同形の木彫りの人形が入れ子になっているロシアの民芸品のこと。全体をまとめるには、それぞれの人形の大きさから、どの人形がどの人形を入れる(包含する)ことができるかを見極める必要がある。
論理思考も同様で、考えをまとめるには、同類で分類した情報を抽象度(あるいは具体性)によって包含関係で整理する。複数の町の集まりで区ができ、区が集まって市となり、さらに市が集まって県になるイメージを描いてもいい。頭の中にこの「包含構造」を持つと、インプット情報がどの大きさ(レベル)に属するものかに意識が向き、考えを整理しやすくなる。
「包含構造」が威力を発揮するのは、複数の情報が雑多にあって、1つ1つは理解出来ても、「それで一体どういうこと?」と、全体が捉えにくい場合だ。こんな時は、まず「幕の内弁当の仕切り」(参照:思考術の基本は「幕の内弁当」と「マトリョーシカ」(1))で情報を同類に分け、さらにそれぞれの区分けをより大きな概念(抽象度)でまとめるといい。具体例で説明したい。
ある会社の調達部門の年度計画に、以下の9項目が上がったとする。
1. 中量購入品の購買価格のデータベースを刷新する。
2. 海外主要ベンダーとの関係強化のため、年2回現地ベンダーを訪問する。
3. 製造委託品の納期管理のため、外注先の工程と進捗度を見える化する。
4. 調達力底上げのため、部員の業務スキルを見える化する。
5. 仕様オプション毎の部品価格をデータベース化し、設計部門と共有する。
6. 懸案となっている半導体の新規ベンダーを早期に開拓する。
7. 輸送手配の効率化のため、関連情報をデータベース化する。
8. 共通在庫の保有数量をリアルタイムで見える化し、3か月先までの予測を示す。
9. 国内主要ベンダーと定期的に戦略情報交換会を開く。
各々の活動はそれなりに理解できるが、このままだと調達部門全体の方針がイマイチ分かりにくい。
そこで、9つの活動を(1,5,7)(2,6,9)(3,4,8)の3つのグループにまとめ、それぞれを「データベースの拡充と利用促進」、「ベンダーとの関係強化」、「業務の見える化推進」のように、より抽象度の高いカテゴリーでまとめてみる。無作為に並んでいた計画が整理された感じになるだろう。さらにこれら3つをまとめると、「業務のさらなる効率化とベンダー体制の強化」となり、本年度の調達方針が見えてくる。
「包含構造」は、自分の考えを整理するだけでなく、伝える相手側の理解も得やすくする。上記のように9つをバラバラに伝えるのと、「包含構造」で整理して伝えるのとでは、受け手の理解度にも大きな差が出る。「思考術の弐の型は、マトリョーシカ」とは、このことを意味している。
論理的思考力は、経営判断には不可欠のものだ。特に今はインターネット上に情報があふれ、意思決定の質は、情報を集める力よりも、集めた情報をいかに整理し意味のある結論に結びつけられるかの思考力によるところが大きい。的確な情報を積み上げて納得感の高い判断を下すには、「全集中」による思考力の鍛錬が鍵となる。
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