M2 「選択と集中」には「本気」のグローバル化



社会インフラを担う重電・重工業分野の日本企業は、外資系企業と比べると、いくつかの際立った特徴がある。その一つが取扱製品の数の多さだ。外資系企業は事業領域を絞る所が多いのに対し、日本企業の多くは幅広い領域に無数ともいえる製品を抱えている。


例えば、私がかつて勤めた仏のアルストムは、在籍当時( 2000 年前後)、発電設備と送電システム、鉄道車両システムの3つが事業領域だったが、その後の変遷の過程で発電・送電事業を米 GE に売却。他方、カナダの大手輸送設備メーカ・ボンバルディアから鉄道部門を買収し、現在ではトラムと高速列車を主軸とする鉄道車両システム専業メーカとなっている。


一方、売上高でほぼ同等規模にある日本の川崎重工業は、車両事業を手掛ける一方、航空宇宙システム、エネルギーソリューション&マリン、精密機械・ロボット、モーターサイクル&エンジンなど多数の事業に関与している。各事業はそれぞれの分野での世界の競合他社と比べると小規模で、日本では業界トップクラスの車両事業も、売上高はアルストムの10分の1以下となっている。


もちろん、これだけでどちらが良くて、どちらが悪いという話では必ずしもない。しかし、日本企業が世界で闘う際は、この同業種での規模の差が、製品開発力、生産拠点の自由度、コスト競争力、販売網の広さなど、多くの点でハンデキャップとなる。


日本の社会インフラ企業は、景気の変動や成長の糧にプロダクトポートフォーリオ(製品ミックス)で対応して来た。事業の業績が悪い時は 事業が補い、事業が不調な時は 事業がカバーする。そうこうしている内に 事業の景気が回復する・・といったシナリオだ。あまたもの製品群を抱える理由の一つには、これがある。


しかし、個々の事業が必ずしも全て強いわけではなく、かつ、国内の社会インフラ整備はすでに完了し、今や保守サービスが事業の中心となっている。今後さらなる成長を期すには、「国内で新たに立ち上る需要機会(例えば、MaaSや水素事業など)を取り込む」か、「既存事業の『選択と集中』を行い、強い事業で世界市場を生き抜く」必要がある。


もし事業を絞って世界で闘うなら、その後の景気変動や成長戦略に「プロダクトポートフォーリオ」では対応できない。絞った分リスクも高まる。このリスクに外資系企業は、「プロダクト」ではなく、「カントリーポートフォーリオ」で対処している。すなわち、A国で需要が低迷したら、B国で事業展開する。世界中どこでも闘えるグローバル展開力が、絞った事業で生き抜く必須の要件だ。外資系企業の多くが多国籍企業と呼ばれる所以(ゆえん)でもある。


世界の国々の需要は、時間差で顕在化する。例えば、カーボンニュートラルがらみの需要は欧州が先行し、2~5年遅れて北米で活性化するだろう。東南アジアの各種社会インフラ需要も、今はインドが圧倒的に大きいが、数年後にはインドネシアが、さらに10年程すればパキスタンやフィリピンなどの国が伸びてくることが予見される。海外事業はこのような国をまたいだ需要の波に乗れる力を持たないと、途中で脱落することになる。


現在の日本企業の社会インフラ事業の海外展開は、(発電設備など一部の分野を除き)いかにも中途半端だ。海外展開には、行きつく先を見すえて「本気」でグローバル化する覚悟が要る。この覚悟が「日本企業を永続的に発展させる試金石」とも言える。